第3話
入学式の日、真新しい制服に身を包んで振り分けられたクラスに向かった。入り口にはもうすでにグループができていて、「おはよー!」と元気に挨拶をされたのだが、大げさに驚いて小さな声で「おはよう」とした返すことが出来なかった。通り過ぎた後で小声で笑う声が聞こえたので大げさな子、とか面白い子、とか思われたのかもしれない。決して大げさに驚いた訳ではないのだが、私は物音や話し声に敏感になってしまっていたので、そういう反応をしてしまっただけなのだ。
初日から不安しかなかったが、翌日からはこれよりも長い時間このクラスで過ごすことになると考えたら、更に不安が倍増してしまい、その日の夜は中々寝付くことが出来なかった。
そして次の日、入学してすぐといえば、といった感じでクラス全員の自己紹介の時間があった。その時、私の体調に変化があった。何かやらかしたわけでも、おちゃらけようとして面白おかしく自己紹介したわけじゃない。ただその場に立って自分の名前、好きなこと、出身校を言っただけでなのに顔に尋常じゃないほどの熱が集まったのが分かった。今までこんなことはなかったのに、と驚いている暇もなく、次々とクラスメイトの自己紹介が進んでいく。
自分から話しかけることはなかったが、同じゲームで遊んでいる子が話しかけてくれ、なんとか友達を一人作ることはできた。
しかし、その友達と話している時にバクバクと心拍音が聞こえ、相手に聞こえていないか不安になるほどだった。
そんなことがありつつも、私は順調に高校生としての生活を送っていた。同じ中学から進学した人は片手で数えられる程度しかいなかったが、他校から進学してきた人ともそこそこ仲良くなることが出来た。
だが、不満が無いわけではなかった。他のクラスは授業中静かなのだが私が所属していたクラスは授業中の私語が酷く、一回だけ強面の先生にきつめに絞められたにも関わらず、その授業が終わった後「あんな怒ることないじゃん」と全く持って反省していないどころか他の優しい先生の授業で喋り続ける始末。
私は静かな空間にほんの少しのざわめきがあるのが酷く気になってしまう質で、少しが積み重なっていくにつれて、心身に負荷がかかっているのを感じていた。
事が大きく動いたのは夏休みが空けてすぐだった。仲のいい友達と話していると、他のクラスメイトからの冷たい視線を感じた。どこか余所余所しく煙たがられているような、そんな態度だった。
理由はなんとなく察していて、私は自分でいうのもあれだが教師が求める理想の生徒だった。制服の着崩しはなく、校則で禁止されているメイクもしない。提出物も体調不良で欠席したとき以外は回収日にしっかり提出していた。そして、入試で数学二十五点という驚異の点数を叩き出した私だったが、中学の時と違い、授業にしっかり出席し続けた結果、学年二位、コースとクラスで一位という成績を取った。
それをよく思っていないクラスメイトも当然出てくるわけでいい子ぶってる、とかメイクしないなんて女子高校生としてありえない、とか。私はクラスLINEに入っていなかったため、悪口言われ放題だっただろう。真偽は不明だが。
話がそれてしまったが、夏休み明け以降、急激に体調が悪くなった。学校にいるだけで頭痛・腹痛・吐き気の症状が出てしまい、にわかには信じられないだろうが自分の意志と反して腕が動き出したことがある。勝手に動くこと自体は中学生の時から付き合い続けていたので最初こそ驚かなかったが、その時は手だけだったので腕まで動き出した時はさすがに驚いた。
一度脳神経外科でMRIを撮ってもらったのだが、脳神経に異常は無く、心因性のものだと結論付けられた。こんな状態で学校に行けるわけがないので二週間以上連続して学校を休んだ。家で休んでいる分にはそこまで酷くないが、学校のことを考えるたびに酷く動き出す。
その時に悟ってしまった。苦労して入った学校だったがもうあそこには通えない。あの場に行けば体が拒否反応を起こしてしまう。実際にたまったプリントを回収しに行ったとき、今まで見たことないぐらいの拒否反応を起こし、まっすぐ歩くこともできなかった。これ以上いたら壊れてしまう。
私は、半年で全日制の高校から通信制の高校へ転学することが決まった。
不安と自己嫌悪 花月 零 @Rei_Kaduki
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