第9話 重ねた涙


「美玖!パジャマ貸すね!」


ポンと出されたのは

ジェラピケのパジャマだった。


「え…高いやつじゃん」


「わがまま言わない!着る!風邪引くでしょ」


とても温かい。暖かい。

着ただけで涙が出そうになる。


「どしたのー!よしよし」


あれ…なんで泣いてるんだろう。

そんなに私は寂しかったのかな。


空のあったかい気持ちが

私を狂わせる。



「下着もやったんだから

新しいのに着替えてる?」


「あ…盗んだやつね…」


「持ってきたやつ!」


万引きには変わりないのだが

7着は盗んだだろう、ブラとショーツ。


私…何してんだか。



「なんか青春じゃない?」


パジャマに着替えた、空が言った。


「出会い方はサイトだったけど

なんか、俺すごい夢見てるみたい。」


「夢…?」


「自分の事を汚いっていうのは、間違い。

命の為にやってきたのが、援交ってだけ。

ただ、それだけじゃん?


そこで引いたとこで、美玖は美玖でしょ?」




こういう、天使の様な考えの人

いるんだな…と、同時に蘇る記憶。



『楽だよねー女の子は。これで稼げて。』


『美玖ちゃん、お父さんお母さんは?』


『こんな若くして子供出来るとか怖くないの?』


『興奮しちゃうよねぇ〜』



「あ…あぁ…」


また涙が流れてしまう、その時だった。


後ろから空が、私を抱きしめる。


「フラッシュバックってやつ?

その人たちは時の人。わかった?」


「う…うう…」


声を殺して

目を塞いで


葛藤した。


今はしてないって、言いたい。


過去は変えられないけど

考え方で変わるんだよ。


だから父親のレイプも

母親のネグレクトも


考え方1つで、まだ変えられる。



でも、私の幸せはなんだろう。


何が、幸せと思えるんだろう。

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