第8話 私と空


万引きに明け暮れて

全然寝ていない。


寧ろ、シャワーに入りたいなぁって

贅沢を思ってた。

そんな時だった。


「美玖、家においで」


空からのお誘いだった。


学校に行ってなくて

1週間が経ったけれど

親、学校から連絡もなかった。


「うん…シャワー入りたい」


「だよねー、頭洗ってあげる!」


「恥ずかしいよ!!!」


「人に洗われたら気持ちいいんだよ?」


なんて言いながら

万引きの戦利品を持って

空の家に行った。



そこは少し豪邸と言ってもいい

大きな一軒家だった。


「普段、誰もいないから」


ガチャっと開けて、空の部屋に行く。

広々としたスペースだった。


ただ、殺風景というか

カーペットに大きなベッドだけで

今時の男の子ではないようなイメージ。


「さて、お風呂入るよ!キレイキレイしよー!」



今更になって、裸になるのが恥ずかしい。

あれだけ身体を売っていたのに、何故だろう。


「美玖ー?おいでー!」


大事な部分だけタオルで隠そう…


「頭…洗ってくれるの?」


「その約束でしょー?」




広いお風呂場が、シャンプーの匂いに包まれる。


「いい匂い…」


ふわふわとする、フローラルの匂い。

わしゃわしゃとロングの髪を

丁寧に洗ってくれる。


「美玖はいい子だねー!子犬みたい!」


「動いたら…ダメじゃん!」


照れ臭くなって、顔を背けた。


「んー、ちゅーしたい!」


「え!!!?」


「目閉じてっ!」



優しいキスだった。


胸がときめいた。


こんな幸せなキスがあるのかと

身体が暑くなる。


どこもかしこも敏感になって

シャワーだけでも、気持ちいい。


「美玖?大丈夫?」


「え!あ!うん!大丈夫!!!」


「良かった良かった、ザーって流して

部屋に戻ってていいよ!」


「あ、うん…!」



身体も綺麗にして、歯も磨いて


身も心も綺麗にした気分だった。



赤らめた顔を隠しながら

そそくさと部屋に戻る。




空はなんで

ここまでしてくれるんだろう…。



「あー気持ちよかった!

美玖も綺麗になって、美人!」


「お世辞上手いねー!」


「あはは!飲み物飲もうー!」



久しぶりに

心から笑顔になった気がした。


と、共に

悲しい気持ちにもなった。


この関係を終わらせたくない

そう思ったんだ。

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