第13話(2/2)環境音に耳を傾けて
「流石に遅くない?」
タナショーとはまだ短い付き合いだけど、約束を無断ですっぽかすような人でも、忘れるような人でもないことは分かる。となると、何か外せない用事ができたか、誰かに引き止められているか。
「
聡平が返事のこない画面を見ていると、田中が慌てて談話スペースに駆け込んできて。
「いえいえ、ちょうどそんなことだろうと考えていた頃です。もしかして、先生だったりしますか?」
「え、僕なんかしたと思われてるの! 違うよ。何か三年生の面識ない人だよ」
「えー、それは災難ですね。絡まれるなんて先輩もついてないですね」
軽い挨拶もほどほどにして、
「なんか違和感あるなぁと思ったら、志之くん僕に敬語使ってる?」
「敬語って言えるほど、大層な言葉ではないと思いますが、丁寧には話してます」
「なんでよ?」
「今ここには僕と先輩しか居ませんが、いつ誰が来るか分かりませんし、誰の耳にこの会話が届いているか分からないじゃないですか。先輩が下級生にタメ口で話されているなんて噂が立つと迷惑だと思うので、校内では特に気を付けてます」
「どんどん堅くなってるね! やめてよ、僕は別にそういうの気にしないし、傍から見たら僕の方が下級生に見えると思うよ。いつものラフな感じでおねがい」
「そんなことはないですけどね。先輩がそれでいいならやめますね」
聡平がそう言い終わると、田中は吹き出すように笑う。それを見た聡平もクスクスと笑い始めた。初対面のようなおかしな会話のおかげで、大分場の空気は和らいだ。ひとしきり笑った所で聡平は口を開く。
「よかったよ元気そうで。後味悪い別れ方したからさ。もう同好会辞めちゃうと思ったよ」
「まぁ、僕としては正しいことを言ったし。口は悪いけど
「そう? 俺は凛くんが悪いと思うけどね」
「ありがとね。そういえば先輩はどう?
「俺もあれから一回しか会ってないよ。それも曲作りの依頼の話だけだったし。あの人携帯持ってないから連絡取れないんだよね」
「あ、そうなんだ。曲作り? 志之くんも大変そうだね」
「そうでもないよ。これは俺がやりたいことだからね」
二人は会話もほどほどにこの場は切り上げることにした。聡平はこの後、部室で
「タナショ―も気が向いたらさ、今日じゃなくてもいいから、いつでも来てね。多分、凜くんはしばらく部室に近づかないと思うよ。あ、強制はしないよ」
「うん、わかったよ。
聡平は彼と別れて、部室を目指した。
部室棟の階段を上がっていると微かにエレキギターの音が聞こえてくる。増幅器を通して聞こえてくるその音は、たどたどしさの中に力強さがあるように思える。繰り返されるいくつかの和音のパターンに乗せられるように体が軽くなったように感じる。次へ踏み出す足が心地よい。タンタンタンと足を動かして辿り着いた部室。俺は力強く扉を開けようと手を掛けた。
───あれ……?
扉の前に着いて、耳に届くのは増幅器を通していない。原音のギターサウンド。明らかにタケのものではない、知らない第三者の音。
「タケ! ごめん、遅くなった」
聡平は勢いよく、わざと自分の存在を知らせるように扉を開ける。扉の小窓から誰かを確認する余裕はなかった。
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