第13話(1/2)環境音に耳を傾けて
初ライブ終わりの部室で、
しばらくは部室での合わせ練習は中止して、それぞれが個人練習をすることになった。
お昼休み。
前に
そんな朧げなまま昼食をとる彼の元に、一人の女子生徒が来た。
「シノくん」
彼女は彼の前で名前を呼んだが、返事はない。
「シノくん!」
もう一度。大きな声で名前を呼ぶが、返事はない。ただの屍だと諦めることも出来たが、彼女は諦めなかった。自身の首に下げたストラップに触れる。
────ピシュー…………。
音がした。何かを起動する準備をするような音。この音は……。俺は咄嗟にスラックスのポケットに手を突っ込みながら、顔を上げた。
音がする方向にポケットから取り出した物を向ける。目の前にはカメラを構えた女子生徒。
「さ、佐藤さん?」
────カシャリ。
「うん、いい顔してるね。だけど安心して、この写真はすぐに消すから」
彼女は聡平に液晶モニターを見せながら、ボタンを操作して、今撮った写真を削除する。彼はなぜ自分が撮られたのか分からず、呆気に取られているまま、彼女の方へ無意識に突き出した自身の腕を確認する。
「あ! ごめん。俺もすぐに消す」
聡平がポケットから咄嗟に取り出したのはハンディレコーダーだった。先生によっては、授業の復習のためにボイスレコーダーの使用が、事前報告の元認可されているが、彼の用途は違った。
「ごめん! ハッときた音を録っておくの癖になってて……あ、でも、怪しすぎるか。いや、盗聴とかじゃなくて────」
「だ、大丈夫。今さ、腕章してないでしょ。だから、私も盗撮かもしれない。隠れてないけど! それならおあいこだし。もしそういうことに使ってるんだったら、今私にレコーダー向けたりしないでしょ。第一、シノくん……盗聴なんてしなさそうだしさ」
「う、うん。しない、絶対」
コロコロと変わる彼女の表情。慌てていたり、冷静だったり、恥ずかしがったり。転々とする言葉と仕草を見ていると、俺の脳裏にはある一人の人物が浮かんだ。
それが何だかいけないことのようで、胸のあたりが少しキュッとなるのを感じた。
「それでね、これ。頼まれてたこの間のボランティアの写真。それからデータね」
「何のデータ? 俺頼んでたっけ」
「……写真部の友達がね。ライブの映像を途中からだけど撮ってたみたいで、何かに使えるかなって」
「わー! ありがとうね。その友達にもお礼言っといて、助かったって」
「うん。あ、のさ。何か相談したいこととかあったら、何でも言ってね。私音楽のことはわからないけど、話聞くくらいならできるからさ」
「ほんと? 写真とか映像とか、多分必要になることがあると思うから助かるよ。その時はよろしくね!」
その日の放課後。
田中とは予め連絡をつけた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます