第10話(2/2)後片付け
そんな彼が「よいしょっ」と安全に机を下ろした所で名前を呼ばれた。姿を確認せずとも誰に呼ばれたのかはすぐに分かったようだ。
「え、佐藤さん⁉ ……って椅子持つよ!」
「う、うん。ありがとね」
彼は彼女のパイプ椅子をひょいっと受け取ると、棚に差し込んでいく。それから、スペースへ帰るまでの道をともにすることになった。
「ライブ凄かった。音につられて見に行ったら、ステージにシノくんいて、ビックリしちゃったよ」
「聞きにきてくれてありがとうね。何だか恥ずかしいなぁ。それで佐藤さんはどうしてここに?」
「ほら、写真部の腕章。私たちの部もボランティアに来てたんだよね」
「そっか! 考えてみたら学校から近いし、俺たちだけな訳なかったね」
「それよりさ、ボーカルの子大丈夫なの?」
「うん。今は休んでるけど意識はあるし、大事なことになってないよ」
さほど離れていない距離なので、挨拶程度の会話をしていると聡平のボランティア先に着いた。
「じゃあ、また学校でね。ライブの写真も撮らせて貰ったから、使いたかったら声かけてね」
「ほんとう⁉ 助かるよー。じゃあね」
聡平が手を振って彼女のことを見送っていると、シャツを引っ張られたことに気が付く。
「楽しそうじゃん」
「りっ、凛くん⁉ も、もう具合はいいの? いや、いいはずないよね。俺が全部運ぶから休んでてよ」
「……倒れたの、悪いと思ってる。ごめん。──あの子、ライブを見てくれたの知ってるからさ気になって。ボクのこと何か言ってた?」
先輩は俺から目を逸らした。口調が安定していないし、どこかしょんぼりとして見える。小さな体がより小さく見える。掴まれたシャツには力が込められている。俺はグッと握られた彼の拳に手を重ねる。
「大丈夫かなって心配していました」
「そうか……」
触れた手を通して、力が抜けていくのが分かった。先輩が何も言わずに倒れたから、先輩だけが悪いのか。そうじゃないと思う。もっと俺が彼を、たった一人のボーカリストのことをよく見れていたら、最悪の状況は避けれたはずだ。その予兆に早く気がついていたら、出来ることはたくさんあったはずだ。
「もうこんな不甲斐ないライブはしたくないです。俺、頭のどこかで凛くんは大丈夫って思ってたんです。それより二人を支えなきゃって。凛くんの歌に甘えきっていたんです。もっ────」
「ありがと。
「だけど……」
まだまだ先輩に伝えたいことはあった。だけど、それを言い終わる前に先輩は片付けに戻ってしまった。
4人は撤収作業を終えて、他の催し物の片付けも手伝った後、鶴見に別れを告げるために先程までスペースがあった場所に集まった。
「「「「ありがとうございました!」」」」
「こちらこそ、今日はありがとうございました。君たちの何か助けになったかは分からないけど、私はとても助かりました。MVPは
「……恥ずかしい。偶々折り紙があの子たちにハマっただけで……」
「いやいや、タケは凄かったよ。俺なんか逃げられちゃったし」
「二人とも暗いぞ! そういう所は一概に褒められないかな。あとバンド仲間ならもっと、自分のことは共有することはオススメするよ。特に中堂君ね」
凜は小さく返事をした。
「わかっていると思うけど、来てくれた人たちの不安感を煽るようなことは絶対にしちゃダメだからね。私は君たちのこと応援してるからね」
「「「はい!」」」
4人は鶴見へのお礼を済ませて商店街を後にする。最後尾の聡平は他の3人を先に行かせて、一人で鶴見に話しかけた。
「どうしたの? ……にしても凄い荷物だね。それで歩けるのが不思議だね」
「はい。鶴見さんに凛くんを見てろって忠告を受けたのに、全然ダメでした。俺言われた時思ったんです。目を逸らすわけないだろって。でも演奏が始まったら、そんなこと考えられなくなってしまって……。凜くんがああなること分かってたんですよね?」
「彼が君へ信頼を置いていることはすぐに分かったからね。でも自分でも、少し意地悪だったと思う。ごめんね。こういう問題って本人から聞くものでしょ?」
「そうだと思います。問い詰めたいわけじゃなくて、お礼を言いに来たんです。もうこんなことは絶対に起こしません。初ライブが鶴見さんの場所で本当に良かったです。ありがとうございました」
聡平は鶴見からの返答を聞かずに、頭を下げる。今度こそ本当に別れを告げた。彼女は大荷物の彼を見送る。
「相変わらず、罪な子よねぇ……」
鶴見はそれだけ一つ零した。
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