第10話(1/2)後片付け
演奏自体は難なく終わった初ライブ。しかし、問題は演奏が終わった時に起こった。ほんの数秒前まで歌声をスペースの外にまで響かせていた
ステージの裏側。頼りない垂れ幕一つで隔てただけのそこには今しがた退場した新・ボランティア同好会の姿があった。
先輩が急に倒れた。予兆には全く気が付かなかった。何が目を離さないだ。いざ、演奏が始まったら自分のことしか考えられなくなった。フラッシュバックするのは、直前の映像。先輩がふらりと体勢を崩して倒れていく様。
「
「は、はい!」
田中の呼びかけによって、正気を取り戻した
「タケ! ミキサー、線が集合してる機械の横、黒い鞄を取ってきて」
「分かった……」
「凛くん……」
俺は体に先輩の重みを感じながら、顔を覗き込む。目を瞑って、マスクの中で呼吸をする先輩。いつもより、明らかに白い顔が缶を持つ俺の手を震わせる。その震えはよたよたと伸びてきた先輩の細い手によっておさまった。手から伝わる温度から、大丈夫だと言われているような気がする。
「
先輩の耳元に向かってそっと呟いた。
それから程なくして、凜は酸素缶がなくても呼吸が出来るくらいに回復した。申し訳なさそうに体を起こしている。
「中堂くん、そろそろ回復したかな? 田中くんと
舞台裏に
「……あれで、良かったのだろうか」
「無茶振りすぎたけどね!!」
「二人とも、助かったよ。あの終わり方じゃ不安を煽っちゃうよね。鶴見さんもありがとうございました」
「いいってことよ! それより、しっかり後片付けはやってもらうからね」
「「「了解!」」」
「あの子たちと何かあったんでしょ。君がここに来なかった一年の間に」
「……はい」
「言及する気ないよ。だけど、何だか今日の歌は窮屈そうだった。まだ夢、変わってないんだったら、今からでも謝って───」
「そうかもしれません。だけどメンバーのせいじゃない。ボクがまだまだ至らないだけです」
凛はそう吐き捨てると、舞台裏を後にしようと歩き出した。
「軽作業なら力になれると思うので、ボクも片付け参加しますね。今日はありがとうございました」
凛は振り返ると頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます