第4話 聞いてないって!
凛が満足そうな笑みを浮かべて、教室の扉を開け放つ。そこにはある二人の生徒がいた。
「さぁ二人とも、最後の一人を紹介するよ。その名も──Sohei Shino!」
「え、俺が最後! そのかぶれた言い方。やめてくれますか!」
こいつ、あれだけアイリスが好きだとか。もう一度音楽をやるならアイリスと一緒じゃなきゃ。みたいなこと言ってたのに、蓋を開けてみれば俺が最後なのかよ。こういうのはさ、一緒にメンバー集めるものだと勝手に思ってた。
突然の大男の登場に、二人は驚きもせずに呆れた顔をただ、
「君が最後の被害者か。ご愁傷様です」
陰鬱そうに声を出したのは、マッシュヘアの彼だ。ジロリと覗く目の綺麗なこと。バサバサの睫毛は一層に瞳を輝かせている。
「彼は…………よく知らないけど、顔が良いから誘った!」
「名前も知らないんですか……」
「
「そ、それじゃあー。あの隅の坊主頭の方は……」
教室の隅で目をパチパチとだけさせている坊主頭。特筆するべき身体的特徴を持ち合わせていない彼。ザ・普通な彼。野球部っぽいけどダンス部所属の彼。
「彼は、ダンス部の練習場所の端っこにいた。なんか肩身狭そうにしてたから誘った。以上」
「なんて理不尽⁉︎」
「僕は何で連れてこられたのか、さっぱりですよ。ただ真面目に一人。練習していただけなんですよ……」
そう言いながら、頭を掻くのは
「凛くん! しっかり説明してくださいよ。流石に言葉足らずがすぎるよ」
「そうだね。これからボクたちは『新・ボランティア同好会』として音楽活動をする!」
三人は誰一人として、凛の呆れた宣言に言葉を返すことが出来ずに、立ち尽くすばかりだった。凜は片手を胸に、もう片方を大きく広げて、自信満々に胸を張る。
新・ボランティア同好会。この変なネーミングには凛の趣味が少なからず影響しているかもしれないが、それなりに通った理由もある。
正式なボランティア部はもう存在するので、その部との差別化で「新」。メンバーが足りずに部活動として申請することは難しいので、「同好会」となる。
「凛くん、何でボランティア部なの? 軽音部じゃないの? しかも同好会⁉」
椅子を四脚。円状に設置して、四人は今後の話し合いをしている。いや、突然集められた三人から、凛への質問会といったところ。
「軽音部は諸々の都合でね、今は立ち上げられないんだよ。だから、地域のボランティア活動と称して、ボクたちは音楽ライブをするんだ。それならあまり、軽音部と活動内容が変わらないでしょ。さらに、ボランティア活動にもなって一石二鳥ってわけ」
凛は綺麗なソプラノボイスを駆使して、理路整然と答える。
「いやそもそも、オレは入るなんて一言も言ってなくて」
「僕もですよ」
至極真っ当な意見が二人から飛び出る。すると、凛は静かに開け放たれていた教室の扉に近づく。
──カチッ。
扉の鍵をかける音が聞こえる。そして、凛は三人の方へ向き直る。一度目を瞑り、目を開けると、大きく息を吐き出す。
「何か勘違いしているよね。そんなの大した問題じゃないんだよ。君らに選択肢があると思った? 残念。ボクが一緒に、君らと音楽をやるって言ったんだからさ、君らは黙って従うしかないんだよ」
俺はこの時、初めて。いや正確に言えば初めてではないのかもしれない。
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