第1話(3/4)美男子先輩との遭遇
「
「餌食だなんて言い方は……」
急に名前を呼ばれて、体は音に反射するかのように小さく震えた。この人、初対面からグイグイ来るタイプか。そうだよ。俺はあの厄介な勧誘の良い撒き餌だよ。
「だけどねー。君も今、ボクのことを、身長や、このカワイらしーい容姿から。性格なり、年齢なりを少なからず判断しているはずだよね」
こういう話の振り方をするってことは。あれ、もしかしてこの人先輩?
「ボク。実は三年生なんだ」
「え! すみません。てっきり同級生かと、いやでも、言われてみれば、部室棟とか抜け道とか一年生が知り得ない情報を──」
「まぁこんな見た目だし、慣れてるからいいよ。君もそうだろうし」
全ての自分事を、他人にも当てはめて考えるなんてことは出来やしないだろう。二人の間には微妙な空気が流れる。そんな空気に構うものかと
正門よりも少しばかり、小さな門が見えた。いわゆる西門というやつだろうか。しかし、閉まっている。
先輩らしきものは、手を振りながら俺の名前を呼ぶ。え。行かなくちゃいけない感じ? 虫とかすごい居そうなんだけど。
俺は渋々、茂みに足を踏み入れた。ブレザー越しでも分かる、ピンとした草花の逞しさを感じながら、先輩のいる場所まで急いで向かう。
「ほーら、見えるかな。あそこフェンスが破けてるでしょ」
身を屈めながら指を差す先輩。そのしなやかさの先には、よくグラウンドとか野球場を囲んでいるやつ。緑色の格子状の金網があった。その一部が破けている。確かに、ギリギリ人ひとり分くらいの隙間がありそうだ。
「無理ですよ、俺じゃ。見るからに通れないですって。制服引っ掛かりますよ」
「そんなのやってみなきゃ分からなくない?」
「やらなくても分かりますよ! 先輩なら通れるかもしれませんが、俺は絶対無理です」
「なんでよ! せっかくボクが親切に教えてあげたんだよ」
「あのー、本当に意味分からないです。子供みたいな焦れ方はやめて下さい。俺、侵入者じゃないんです。正式なここの生徒。あそこ通るぐらいなら、堂々と正門から帰ります」
逆ギレするようにぷりぷりと声を荒げた、おかしな先輩へ。俺は至って真面目に硬く返した。すると、先輩は笑い出した。
「ははは。君は本当に面白いやつだね。こんな変な先輩に、バカ真面目に付き合ってくれるなんてね。ごめんね。抜け道なんて嘘だよー!」
先輩はそう言うと、ポケットから鍵を取り出した。少し錆びついたそれは、おそらく西門の鍵だ。
「ねぇ少しだけ、ボクの話に付き合ってくれない?」
先輩は茂みから、ぴょこぴょこと出ていくと、舗道とその境目のブロックに腰をかけた。あどけない笑顔を俺に向ける。今から共犯者に、悪だくみを持ちかけるかのようなテンポの手招きで呼んでいる。あー、付き合わなくちゃならない感じね……。
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