第3話

 恐怖に怯え逃げ惑うのは人の性。

 強い何かに縋り付くのも人の性。


 先の戦いは酷かった。


「愛を武器に! 正義を手に入れるのですっ!」


 加齢にしなびた聖者が、後方から人々に向かって叫ぶ。

 街は赤く燃え上がり、深く黒く沈む影の上に浮かび上がる。

 人々の前には武器を持った兵士たちが並び、襲い来る敵に向かっていく。


 敵味方に関わらず、上がる悲鳴。

 逃げ惑う武器持たぬ人々も血を流す。


 聖者は変わらず後方で叫ぶ。

 言葉は勢いがあり、指で敵を指し示すけれど、自らが前に立つことはない。


 王族や貴族は、更にその奥に控えていて。

 建物の外に姿を現すことも少ない。


 聖者の前には供物のように人々がわらわらと群れをなし、その前方に兵士が立つ。

 兵士の振りかざす刃の前では、黒く得体の知れないものが赤い血をまき散らしては散っていく。

 ある者はその血を浴びて凄まじい絶叫を上げながら尽きていき。

 ある者は蠢く牙にかみ砕かれて散っていく。


 その戦場でマグノリアは、癒しを施していた。

 癒しても、癒しても、次から次へと患者は運び込まれて来る。

 普通の聖女であったマグノリアに、できることは少ない。

 彼女が手をかざす先で、命は儚く次から次へと散っていった。

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