第14話

「───洋。」




真っ直ぐと、洋の名前を呼ぶ、淡々とした声がすぐ近くから聞こえた。



洋も賢人も、声のする方へ顔を向ければ、いつの間にかすぐそばに男が立っていた。





雨宮あめみや




冷徹な男の視線を感じて、洋の腕を掴んでいた賢人が、気まずそうに彼の名前を呼ぶ。





「ど、どうしたのお前いきなりー」




賢人が誤魔化すように笑う。理由もわからず浴びせられる畏怖ほど、不気味なものはない。



そんな賢人を無視して、男は洋の腕を掴んで、賢人の手を引き剥がす。



それで終わりかと思ったが、彼は洋をも見下ろし、冷めきった表情のまま言う。





「行くぞ」




見上げた先、数年ぶりにしっかりと交わる視線は濁っていて、過去の苦々しい記憶を呼び寄せる。洋は彼に腕を掴まれたまま反射的に返す。



賢人の時とは違って、洋の唇は自分の意思を音にできていた。




「どこに」




そんな洋を引っ張り上げるように立たせると、男が抑揚のない声で言う。





「ホテル」


「は。」





男以外の、その場にいる全員が、唖然とした。もちろん洋も含めて。

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