第13話

初対面の男にいきなり匂いを嗅がれるなんて洋の性格上、不快でしかない。



けれど、周りは一切気にした様子はない。というか気にかけてもいない。



ここにいる人たちにとっては賢人の距離感が普通で、洋が例外なのだろう。





「それ、シャンプー?それともなんか風呂上がりにトリートメント的なやつ使ってんの?俺、良い匂いの子好きなんだよね、あ、香水じゃなくて、内側から香ってくるパターンのさ、なんつーか、その子の私生活感じて興奮するっていうか」




賢人の笑みを浮かべる顔が紅潮していく。その赤は、酔いでも照れでもない。




男の本能のスイッチが入ったようで、お酒の席と男女が集まる場所では起こりうる現象でもある。



でも、それを自分に向けられるのは洋にとっては不快と恐怖でしかない。





「そういえば洋ちゃんって一人暮らし?」





そう言いながら、賢人が洋に近づいてくる。この場であからさまに逃げることもできなくて、強張る顔が痙攣を起こしかける。





「なあなあもっかい嗅がせてよー」




甘えと脅迫を履き違えた賢人に嫌悪感が募る。



普通にきもいです、と吐き捨てたいけれど、引き攣る唇がうまく動かない。



周りは自分達の世界に染まりきっていて、こちらに気づく様子もない。賢人は血走った目を笑顔で細めてひた隠しにする。



彼の手が洋の腕を掴む。やたらと熱く汗ばんた手に鳥肌が立つ。




「(もうやだ、)」




怒りを通り越して泣きそうになった時、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る