第12話

なんて思いながらも、相槌を打ちながらカシスオレンジを呑む速度が上がる。



前のサークルはこういった飲み会はほとんどなかったし、洋も積極的に飲み会などに参加するタイプではなかったから、こういう時のお酒のペースがわからない。





「洋ちゃんみたいなタイプ、珍しいんよね。俺らには高嶺の花というか、場慣れしてない感じがもう可愛いもんね」





酒の匂いを充満させた声に、洋は顔を背けたくなる。



やたらとどうでもいいことをつらつらと話し続ける賢人に辟易していれば、反対側の隣から、トントン、と肩を叩かれれる。




向けば、茉莉が「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」と耳打ちしてくる。



私も、と言おうとしたところで、今度は反対側からトントンと肩を叩かれる。





「洋ちゃん洋ちゃん、なんか頼もうよ。あっ、枝豆頼むう?」




メニュー表を広げ冗談を飛ばしてくる賢人に顔を向けている間に、茉莉はトイレに行ってしまう。



茉莉が戻ってきたら私もトイレと行って逃げようと我慢を選んだ洋は、とりあえず一緒にメニュー表を覗き込む。




その時、不意に隣の賢人の気配が自分に近づいた気がした。



覗き込んでいたメニュー表に濃い翳りが生まれる。





「洋ちゃん、なんかめっちゃ良い匂いすんね」





頭上からそんな声が聞こえてきたかと思えば、賢人がメニュー表を覗き込む洋の頭を、くんくんと嗅いできたのだ。




びっくりして上半身ごと引いて離れれば、賢人は「あ、ドン引きしてるー」なんてへらへらと悪びれる様子もなく笑っている。

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