第15話

そんな周りを気に留めた様子もなく、男は洋の手をとってそのままさっさと店の出口へと歩き出す。



当たり前のように指を絡めて繋がれた手に、洋の中で、ぶわりと過去が浮かび上がる。





「(1年以上積み上げても、恋人繋ぎなんてしなかったのに。)」





数年も会わないうちに、彼は一体どれだけ他の女とこうして手を繋いで、キスをして、抱き合ったのだろうか。考えるだけ無駄だ。



洋には想像もつかない数字だろうから。




男が店の扉を開けようとした時、ちょうどお手洗いから出てきた茉莉と鉢合う。



彼女は洋たちを見て、先ほどの集団と同じように唖然として、それから、「え、え」と混乱し始める。





「どういうこと、知り合い?もう抜け駆け?早くない?え、もう一次会終わったの?え、なに、どういうこと」





思ったことを全て口に出してしまうタイプの茉莉の矢継ぎ早な問いかけに、男は扉を手にかけたまま何も言わない。




そうして、少し後ろを振り返り、洋を見た。



その鬱陶しそうに細められた黒の双眸が、無言で告げてくる。お前が答えろよ、と。



洋は混乱する茉莉を落ち着かせるために、頭を巡らせた結果。





「うん、その、中学の“同級生”だったんだよね。私たち自身もさっき気づいて」





へえ、と頷く茉莉。



不意に彼と繋がれた手の力が込められた。



視線を彼へと向ければ、不機嫌に細められた瞳とかちあう。鬱陶しそうに眉根を寄せた男は、綺麗な顔に不快を貼り付けたまま。

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