第8話

3月生まれの洋はついこないだ19歳になったばかりで、飲酒に限っては未成年だ。



それでも、この騒がしい空間を正気で乗り切れる気がせず、茉莉が頼んだカシスオレンジを奪い取ってはちびちびと嗜む。




酒と汗と熱気と煙草の匂いが混じって、洋の鼻がねじ曲がりそうだった。




女子校時代も、女子だけという開放感からさまざまな醜態を晒す女子が多発していたけれど、香りというものに彼女たちは敏感で、それこそ教室はシーブリーズやら優しい香水の匂いが占めていた。男くさいなんてもっての外。






『毎日即刻帰宅する僕とは大違いの、キラキラくんだよ』




不意に先日の守の声を思い出す。



結局、お隣さんは昨日も帰ってこなかったようだ。洋は氷が溶けてさらに薄くなったカシスオレンジを飲みながら、枝豆に手を伸ばす。





「(私も守さん側だな……帰りたい)」




はあ、と溜息がどんちゃん騒ぎの中に掻き消される。



その時、特にはしゃいでいる前方から「わあっ」と声が上がる。





「おい、おっせーぞ! 水純みすみ!」





前方からやたらと声だけは通る、呂律の危うい声が聞こえてきた。




洋の、枝豆を食べていた手がぴくり、と止まる。



考えるよりも先に、視線を持ち上げて、前方へと顔を向けていた。

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