第7話
酒の力は人を饒舌にする。私は溜まりに溜まったものを吐き出していく。言うべき人に言えなかった矛先を、全く知らない人にぶつけている。
「ふたつめは、私がいない間に同棲中の彼氏が親友と乳繰りあっていました。それに対して、私は何にも言えなかった」
熱い涙が再び溢れ出す。瞼がヒリヒリする。今さら今の自分が他人からどう見えてるのか気になりだす。酷い顔で、晒す醜態。
川に流されるように周りに合わせて生きてきた落ちは、ドブ。
「……彼氏なし親友なし家なし職なし。私の人生って、なんなんだろう」
独り言のように呟く。途中から隣の男のことなどどうでもよくなっていた。
言葉は声にすると実感を持って、自分の身に降り掛かってくる。渦巻いていた靄が形を成して私の存在を全否定してくる。
男は運ばれてきたカクテルの入ったグラスを手にすると、私のグラスに飲み口の端をぶつける。子気味の良い音と共に男が言う。
「そんな人生なら捨てれば?」
男は皮肉に釣り上げた唇でそのまま酒を呑む。たったそれだけの仕草がまるで映画のワンシーンのようだ。
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