第6話
バーに時計はないので時間は定かではないが、既に客足は落ち着いていて、常連らしき人が数人いるだけだった。
錯乱する視線をなんとか正し、声の主を見上げる。サングラスをかけた男の横顔は酔いの最中でも整っていることを認めざるを得ない程だった。
「何杯目?」
私の隣に当たり前のように腰掛けた男は、口角を上げたまま問いかけてくる。ハスキーボイスなのか、声の端々が予告なく掠れるのがあまりにも魅惑的だった。
「13」
私は何故か嘘を吐いた。しょうもなかった。
「酒弱そうなのに頑張ってんだ?」
「ほんとは7だよばーか」
「……初対面の女に喧嘩売られたのはじめてだな」
「自慢ですか?私もありますけど、今日一の自慢。聞きます?」
「興味ないからいい」
「ひとつめは、決まっていた就職先に取消されました。やっぱりお前いらなーいって」
私の言葉に、男は興味なさそうに欠伸をする。サングラスはそのまま掛けたままで、薄暗いレンズの奥に長い睫毛が透けて見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます