第6話

バーに時計はないので時間は定かではないが、既に客足は落ち着いていて、常連らしき人が数人いるだけだった。



錯乱する視線をなんとか正し、声の主を見上げる。サングラスをかけた男の横顔は酔いの最中でも整っていることを認めざるを得ない程だった。




「何杯目?」




私の隣に当たり前のように腰掛けた男は、口角を上げたまま問いかけてくる。ハスキーボイスなのか、声の端々が予告なく掠れるのがあまりにも魅惑的だった。




「13」




私は何故か嘘を吐いた。しょうもなかった。




「酒弱そうなのに頑張ってんだ?」


「ほんとは7だよばーか」


「……初対面の女に喧嘩売られたのはじめてだな」


「自慢ですか?私もありますけど、今日一の自慢。聞きます?」


「興味ないからいい」


「ひとつめは、決まっていた就職先に取消されました。やっぱりお前いらなーいって」




私の言葉に、男は興味なさそうに欠伸をする。サングラスはそのまま掛けたままで、薄暗いレンズの奥に長い睫毛が透けて見えた。

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