第4話

「俊介?」




リビングの電気は消えているけれど、ローテーブルの上に安い缶ビールがふたつ。ソファーの背もたれに女物のコート。脱ぎ捨てられた服が寝室へと続いていた。



頭より先に身体が動く。視野が狭まる。自分の鼓動が耳に奥に響く。



寝室の扉に手をかけ、拒否反応を示す理性を無視してそこを開ける。




「……俊介?」




目の前には下着1枚姿の俊介と、ベッドの脇に落ちたブラジャーを拾う愛子がいた。



ふたりと目が合う。困惑が隠しきれていない。俊介はひくつく唇で乾いた笑みを浮かべながら言った。




妃夏きっか、実家に行くんじゃなかったっけ…?」




私はショートした思考で、乾いた喉を震わせた。




「うん、そう。今から行く」




呆然としたままそれだけを告げ、私は寝室の扉を閉めて、再び玄関に戻り、脱ぎ捨てて散らかったヒールを丁寧に履き直し、外に出た。

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