第15話




僕はよくお母さんのお手伝いをしていた。


そうすると優しい笑顔でありがとう、と言われる。僕はそれがとてもうれしかった。



料理も最初こそ、焦がしてしまったりすることもあったが、回数を重ねるうちに上手くなっていった。



お母さんは身体が弱く、週に3日は熱にうかされベッドから起き上がることもままならなかった。



そんなある日、洗濯を終えて家に戻ってくると知らない人がいた。

身なりの整った2人の男。彼らはお母さんとお父さんの前に座って話し込んでいる。


僕に気づくと「この子です」とお父さんが僕を紹介した。わけの分からないまま「こんにちは」と頭を下げると男2人は笑顔になった。



今思うと嫌な笑顔だ。



「これは高く売れますよ」



僕は男たちが笑っている意味を理解した。


お母さんとお父さんの顔を見ると、しょうがないよねと言いたげに眉を下げている。



男は値踏みするようにまじまじと見て、いや、あれは言葉通り値踏みしていたのだ。僕に値段をつけようとしていた。



「君、名前は?」


「マクロス・ハルク」僕は答える。



その日が両親との最後だった。それ以来どこにいるのか、生きているのかすらも分からない。



僕を売ったお金を持って二人は逃げた。



僕はそれからオークションへと出品された。



合計3回だ。



一度目は令嬢の遊び相手として買われた。おもちゃだった。まだ5歳にも満たない年齢だった僕を犬のように扱い、小屋のような場所で寝起きし、首に鎖を繋がれた。


3回売られた中であれがまだ一番いい待遇だったと思う。令嬢に飽きられた僕は再度オークションに出品され、高貴な身分の夫婦に買われた。



その夫婦には子供ができなくて、僕を我が子のように可愛がった。


正確には可愛がろうとした。


僕を部屋に押し込め、お風呂だって一人で行かせてくれず、何をするにも夫婦のどちらかに付き添ってもらわないといけなかった。


歪んだ愛情はというのは、人間を死の間際まで追い詰めるらしい。



彼らは僕が一人で歩くのすら嫌がった。



ここでもまた鎖で繋がれ、歩けないようにご飯も与えられなくなった。次第に弱っていく僕が心底可愛かったのかもしれない。もう死ぬぞといったところで、夫婦に子供が出来た。



待望の実の子。



要らなくなった僕は、またオークションへ賭けられることになったのだけれど、


その子供が一体どんな扱いをされるのか、その先を知ってしまっているから、



実の子となればもっと普通の育て方ができるのだと信じたい思いだった。



3度目のオークションは男に買われた。



独身、身寄りのないギラギラした目の男。僕の顔が気に入ったらしい。その頃の僕はすっかり弱り果て、反抗する元気も残されていなかったので、従順だった。



その方がずっと楽だということに気づいたからだった。男の鬱憤を晴らすために僕は使われた。暴力もあったし、そういうことに僕を使ったりした。



死んだように生きていた。



僕を売った両親を恨んだのと同時に、助けを求めたかったのも両親だった。


そんな無駄な考えがすっかり無くなったのは、誰かの道具としての生活が、人間としての僕を綺麗さっぱり殺した後のことだった。




その頃に師匠に出会った。

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