第13話

「アルバムを見せてあげよう」



お昼ご飯を食べた後、師匠は黒い表紙のアルバムを1冊持ってきた。

分厚くて、何度もページをめくった跡がついた年季の入ったアルバムには、沢山の写真が収められていた。


「恥ずかしいからやめろよ」


とハチ。


「いいじゃん見ようよ。ひっさしぶりだなあ、このアルバム」


とシールズ。


そんな二人にお構い無しに師匠は次々とページをめくっていく。ハチが十歳くらいの頃からこのアルバムは始まり、もうこの時にはハチの今の面影はすでにあって美少年としか形容出来ないくらい端正な顔立ちをしていた。



沢山写真がある中で、どこをみてもムスッと唇を固く結んで写真に映っており、顔は現在と変わらないものの感情というものが非常に乏しく思えた。


これはいわゆる思春期、とはまた違った緊張感だった。



「この頃なんて、ちっとも笑わなかったんだから。写真撮っても、同じ写真ばかりだ」


「このくらいの歳の男の子は皆こんな顔だろ」


「何がだ、シールズはニコニコしてる。ほら」



見るとこの頃からシールズも写真に登場しはじめていた。ほんとだ、あどけない笑みを浮かべて、ハチの隣でピースサインをしている。真っ黒に日焼けしてるので、多分夏だろう。


次第に二人で映る写真が増えてきた。釣りをしている所や、ぎこちなく狩りをしている所が収められていて、ほのぼのとする。



「あれ、このハチ傷だらけだね」



私が指さしたのは何気ない生活を切り取った写真だった。ハチが白いシーツを干している。シーツの向こうから透ける朝日が眩しいのか、目を細めている。



幻想的で、どこか天国を思わせるその写真に私は目を奪われた。



しかしその写真のハチは顔や腕に傷がついていて、手当された跡があった。


「ああ、これね」と師匠は笑う。


「このバカ、何を思ったのか一人で盗賊のアジトに乗りこんで、満身創痍で帰ってきたんだよ。なんでそんなことするかねえ。

危ないからってひとしきり怒ったのに、分かったのか分かってないのか、次の日には涼しい顔で洗濯物を干してるのが可笑しくって」



師匠の慈愛はとても大きなものだろう、そう感じる写真の数々だけれど、ほんとうの家族は一体どこにいるんだろうか。ハチはどこで生まれて、どうやって師匠の家に来たんだろうか。



「ん? どうしたユウ」



私が黙ったままでいるとハチが顔を覗き込んできた。その仕草は愛犬を想起させる。



”蜜”と名付けられたゴールデンレトリバーの愛犬は私の唯一の家族で、俯く私の顔を覗き込んではペロペロと舐め、もたれかかるように私に温もりを分けてくれた。



あの世界では唯一気の許せる相手だった。こちらの世界ではハチが唯一安心出来る場所だ。


2人合わせると”蜂蜜”になるな、なんてことを思った。



「ハチは今楽しい?」


「ふつう、かな」


「そっか、楽しくないよりは良いね」


「ユウがずっと傍に居てくれるなら、もっと楽しくなるかも」



平然とした顔でハチはそんなことを言った。

私はすぐに頷きたかったけれど、心のどこかで自分の世界に帰らなければならない時が来るんじゃないかと、そんな風に思えてならなかった。


ここに居たいのに、ここに居てはいけないような気がする、口には出さないけれど私はこの世界の住人じゃないんだとそう思えてならない。



そんなことを考え、いつまでたっても返事をしない私にハチは何も言わなかった。

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