第30話◇子犬のような男◇
「止めなさい。転ぶじゃないの。」
真由美さんが怒っても子犬はまとわり着くのを止めなかった。木村がこの子犬のようだと思った。まとわりつかれるのは嫌ではなかった。木村と過ごしたのは一時間程だったが、瑠璃子の心は満たされていた。瑠璃子の店の六十歳のお客さんは、友達とどこかに遊びに行く時はまめに来店し、美肌に良い滋養強壮剤やサプリメントや化粧品を買いに来てくれる。そう言う事がないと余り来ない。少しのドキドキがホルモンを活性化するのだ。瑠璃子は窓の外の真っ暗な空を見ながら、木村と会って良かったと思った。
羽田で木村と別れ、再会を楽しみにしていた令和三年一月にコロナ感染拡大し、一月八日から三月二十一日まで緊急事態宣言が首都圏に出され、それに伴い愛媛県も蔓延防止措置法が発令された。令和三年になったら営業に来ると言っていた木村も当然来ることはなかった。期限が来てやっと解除になり、木村から訪店の打診があると、嫌がらせのようにまた緊急事態宣言が発令された。結局、二〇二一年は、その後四月二十五日から六月二十日までと、オリンピックの開催中の七月十二日から九月三十日までの間に三回も発令され、通算七か月近くに及んだ。
「れもん薬局」と取引のある会社も営業自粛し殆ど訪店がなかった。東京にある株式会社「モリー」も例外ではなく、結局一年程木村は今治に来なかった。イベント事はすべて中止になっていたので「アロマボトル」のコンペティションも先延ばしになったと年が明けてから木村よりメールがあった。令和三年十月にようやく緊急事態や蔓延防止措置法が解除され、イベントや飲食の営業も始まった。やっと世の中が動き始めた十月の初めに佳乃子から電話があった。コロナ禍になって約一年十か月、今治でも感染者が確認されると「どこで出たのか。」と、皆がざわめきだった。
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