第27話◇妻◇

木村は奥さんの事を聞いても話そうとしなかったので瑠璃子も聞くのを止めた。瑠璃子に好意を持ってくれているのかも知れないし、仕事の延長なのかも知れない。木村は一階の軽食の店に瑠璃子を案内した。席について時計を見ると六時が近かった。

「すみませんこんな所で。」

「良いよ。私は。」

「何注文しますか?」

「そうね。とりあえず生中で乾杯する?無事会えた事に。」

「本当ですよね。焦りました。なんで電話繋がらなかったのでしょうねえ。」

「だから、奥さんが妨害電波出していたのよ。つけられているのじゃないの?」

そう言って、瑠璃子は笑いながら後ろを振り返った。木村は困った顔をして言った。

「もー、止めてくださいよ。」

生ビールとフライドポテト、ウインナ―ソーセージ、サラダとから揚げを注文すると、やっと宴会が始まった。

「せっかく来て貰ったのに慌ただしくてごめんなさいね。飛行機は七時四十分発だけど、最終便は保安検査場も混んでいて、七時過ぎには行かなきゃいけないの。後一時間程しかないわ。」

「良いのです。私はこれを見て貰えれば。」

 木村はカバンの中からスケッチブックを出して瑠璃子に見せた。そこには、この間木村が瑠璃子が提案した「瑠璃色の地球」が描かれていた。

「素敵ねえ。これ自分で描いたの?」 

 瑠璃子が木村の描いた絵に見入っていると頼んだメニューが運ばれてきた。

「とりあえず、乾杯しますか?」

「そうね。歩き回ったからね。」

乾杯をしてビールでのどを潤すと瑠璃子が言った。

「これ良いわよ?ガラスで作るとまたイメージが変わるのだろうけど素敵だわ。私が思い描いた地球もこんな感じよ。一等取れるかもよ。斬新だわ。この地球にオイルが入って光が当たるときっとドラマチックよ。今夜の私達みたい。」

 瑠璃子は空きっ腹に一気に飲んだ酒で酔いが回っていて気分が良かった。

「そうですか。瑠璃子さんにそう言って貰うと、なんか自信が出てきました。今夜の私達ドラマチックでしたよね。ドラマチック大切ですよね。」

瑠璃子は調子に乗って余計な事を言ってしまったと後悔した。木村は瑠璃子の気持ちにに気付かず続けた。

「一位にならないと製品化されないので、試作品が出来てみないとイメージと合っているかどうか不安ですけどね。」

木村はビールジョッキをテーブルの上に置くと言った。

「自信あるんだ。」

「ええ、良いアイディア貰ったので。」

「そう?良かったわ。じゃあ前祝という事でもう一度乾杯しようか。」

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