第17話◇飲み会◇
瑠璃子が身を乗り出して聞くと、佳乃子が冷めた口調で答えた。
「犬よ。さっき話したでしょ。トイプードルが二匹いるのよ。散歩に連れて行かなきゃ。」
「こんな夜に?」
「そう。朝はなかなか起きられなくて行けないので夜に行っているの。」
「酒飲んだ時も欠かさないなんて偉いね。酔っぱらっているのに大丈夫?」
「大丈夫でしょ。酔い覚ましよ。今日は沢田さんが来てくれたので楽しくて飲み過ぎたわ。それにね、犬が許してくれないのよ。」
「気を付けてね。」
佳乃子の言葉で初めての会食はお開きとなった。
「タクシー呼んで貰えますか?」
瑠璃子の声を遮るように木村が言った。
「お送りしますよ。」
瑠璃子は恐縮して答えた。
「気の毒だわ。」
「中村さんのお宅はこの近所なので、先にお送りして沢田さんの所へお送りします。」
「木村さんはこの近くに泊まっているのでしょ。」
「良いです。お送りします。」
瑠璃子は二十年以上、薬局を営んでいる。営業から接待を受けたことはあるが、このように丁重にもてなされた事はなかった。どこの業界でもそうだが、会社に沢山の利益をもたらしていれば、それ相応の接待もあるのだろうが、瑠璃子は残念ながらそれほどの実力はなく、母房子から引き継い店を細々と経営していた。薬屋業界でも、調剤薬局やドラッグストアなどを沢山持っていて年商億の利益を上げている人もいたが、瑠璃子には雲の上の話だった。
「送ってもらったら。送り狼にはならないと思うわよ。」
茶化す佳乃子に瑠璃子は言った。
「木村さんに失礼よ。」
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