第8話◇アロマ調合◇
「還暦って人生の節目だって言うけど、私、今まで本当に元気で、お客さんの訴える悩みが分からなかったのだけど、今は、年をとるって辛い事だなと実感しているところです。去年までこんな事なかったのに。知っている?大正元年の日本人の平均寿命は五十歳だったのよ。」
「そうなのですね。」
「大正時代だったら私なんかとっくに死んでたのよ。木村さんにも会えなかったわ。」
「沢田さん面白いですね。」
木村は笑いながら言った。
「私薬屋だから、滋養強壮剤やサプリメントや漢方薬飲んだりしていたのだけど、汗は止まらなかったのよ。それがね、「ティートゥリー」でアロマオイルを買って来てから、汗があまりにでなくなったの。私寝つきが悪かったのだけど、このアロマオイルをつけて寝ると知らない間に寝ていたわ。」
「そうなのですよ。フランスでは治療として用いられていますからね。良かったです。お役に立てて。五自分でお使い頂いて実感して貰うとお客様にお勧めする自信がつきますよね。」
木村は、持ってきたA4サイズ程の大きさの木の箱の蓋を開けた。そこにはアロマオイルの茶色の瓶が三十本ほど整然と並んでいた。
「すごーい。これ全部アロマオイル?」
「そうなのです。サンプルです。このろ紙にてけてお客様に香りを試して貰ってください。これは、調合したアロマを入れる瓶です。」
木村は高さ十センチ程の長方形の箱を出して蓋を開けた。中には茶色の小さな瓶が十本入っていた。
「沢田さんがお客様に選んであげたアロマオイルをこの瓶の中に、お客様に入れ貰って下さい。」
「ちょっと待ってね。」
瑠璃子は席を立って事務所から茶色の小瓶を持ってきて木村に見せた。
「ほら、さっき言っていた中村さんにブレンドして貰ったオイルよ。」
木村は瓶を手に取ると、ラベルに貼られたシールの名前を読み上げた。
「夕凪。ですか。」
「そう。」
「素敵なネーミングですね。」:
「香りを試した途端にざわざわした気持ちが凪いでいくのを感じたの。」
「そうですよね。アロマオイルには不思議な力がありますよね。」
木村は、アロマオイルを選んで貰う時に使うチェックシートや、サンプルのアロマオイルの説明を書いた冊子などの説明をしてくれた。
「全て説明できていないところもあると思います。とりあえず、このチェックシートを使うと、お客様のタイプが分かってお勧めするのに便利なのですよ。使ってみて下さい、」
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