第9話 ◇香りの効用◇

 その時、店の戸が開いてお客さんが入って来た。十日に一度は足を運んでくれる三上さんという女性だった。

「何?いい香りするのだけど。」

 入って来ると言った。

「わかります?アロマオイルです。」

 三上さんは、木村と瑠璃子がが座っている奥のテーブルに歩み寄って来た。箱の中に入った小さなオイルの瓶を珍しそうに眺めると、一本取り出して言った。

「これがアロマオイル?」

「そうです。」

 木村が答えた。

「どんな香りがするの?」

「試してみられますか?それは人気のあるローズウッドです。」

「この人、アロマオイルの会社の人なのです。」

「木村と言います。」

木村は三上さんに名刺を渡した。

「この名刺も良い香りがするね。」

「ありがとうございます。これはベルガモットです。私が好きな香りです。」

「ベルガモット、聞いたことある。」

「紅茶のアールグレイに入っていますよね。ベルガモットは、柑橘系の香りが爽やかなハーブの一種です。香りは能へ直接作用する為、アロマテラピーの世界では「うつ病の治療に役立てられている」として有名です。」

「へーそうなの。」

「ヨーロッパではアロマオイルは治療に使われていますから。」

 木村は三上さんに香りを浸み込ませたろ紙を渡した。

「これはムエットと言って香りをお試し頂く時に使うものです。どうぞ。」

「ローズウッド?聞いたことあるけれど匂いはわからないわ。」

三上さんはムエットを鼻に近付けると言った。

「良い香りね。」

「今度、「れもん薬局」で扱う事になったのですよ。良かったら試して下さいね。」

 瑠璃子が言った。

「ほんと?私アロマに興味あるの。石鹸作った事あるよ。今は商品ないの?」

「また商品が入荷したらおお知らせしますね。」

「私ね。匂いにはとても敏感なの。最近ね、柔軟剤や洗剤に芳香剤が入っているでしょ。」

「叩くと匂う。」

「そうそう、あれダメなのよ。鼻がムズムズして。」

「そうですか。」

「これは鼻がムズムズしないね。」

「これは天然から抽出している精油ですから。」

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