第3話 忘れられないお客様
とある夢の国のエントランスから遠いエリア。昼間は子供達をターゲットにしたエリアなため、とても賑やかだが、暗くなると一気に人気がなくなる。
みんな帰りやすいように中心部の方へと移動してしまうというのもあるだろう。
私はそのエリアにある食べ物やで働いていた。外のテーブルで食べるシステムなので夜は余計に人は少ない。
私は閉店までの遅いシフトの人間だった。
その日も閉園まであと少し。辺りは暗く、街灯がぽつんぽつんとあるくらいだった。
「ラインカットお願い!」
「はーい」
人は少ないとはいえ、それなりに温かい飲み物だったりを求めに人は来ている。
閉園間近になると今日はここまでですよぉと入口を閉じに行かないといつまでも客がいてしまい、閉園時間が遅れてしまうのだ。
店の前に立つ。チェーンで入口を締める。今、買い物をしている人が出たら出口を締めてカット完了となるため、買い物が終わるまでは立って待ち、お店に来た客にも閉店したと案内をしなければならない。
時間も時間なのでもう新たに人が来る気配は無かった。
親が買い物しているのか目の前で座って待っている5,6歳の女の子がいた。
しゃがんで目の高さを合わせる。
「今日は楽しかった?」
「うん!」
無邪気な笑顔を向けてくれる。
「そう!良かったねぇ。今日は誰かに会えた?誰に会えて嬉しかった?」
そう女の子に聞くと
「うん、主や主の永遠の彼女とか…」
嬉しそうにたくさんのキャラクターの名前をあげてくれる。
うんうんと頷いて聞いていたら
「最後にぃ!お姉ちゃん!!」
「えっ!」
自慢じゃないが、昼間に仕事に入ると意図せず子供を怖がらせ泣かせた事もあった。
そんな私が女の子に
「会えて嬉しかった」
なんて言ってもらえるなんてぇ!!
「ありがとぉぉぉぉっ!」
思わずハグしてしまった!かわいい柔らかい感触の女の子。(汗臭くってトラウマになってない事を願う)
親も買い物を終え、
「お姉ちゃん!バイバ~~イ!」
大きく手を振りながら薄暗い中、中心部の方へと帰って行った。私もすぐに戻らず彼女が見えなくなるまで手を振ってしまった。
Happinessを提供するのが売りなのに私がHappinessをいただいてしまった。
毎日多くのお客様が見える中で一番忘れられないお客になったのは言うまでもない。
あの日のお嬢ちゃんへ
きっと貴女は私と会った事も言った事も覚えていないと思う。これから大きくなってきていろんな困難があるかもしれない。自信を無くしてしまう日が来る事もあるかもしれない。でも、貴女は本当に素晴らしいのです。
貴女のたった一言でものすごい幸せな気持ちになれた大人がいるんだもの。
あの眩しい笑顔のまま大きくなってきっと素敵な人たらしな女性に成長していて欲しいと願っています。
貴女との出会いが私の宝物、誇りとなりました。
どうか幸せでありますように
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