第2話 京葉線 東京駅⇒葛西臨海公園駅

 「あっ!」

 渋谷駅で乗り換えの際、何故かホームからホームへの移動の場所に3段くらいの階段が存在した。


 見事に落ちた。正座姿で…


 朝という時間帯。誰もリクルートスーツで正座姿の私の事など気にせず、私の横をすり抜けていく…誰も私なんていないかのように…いや、むしろ邪魔だと言わんばかりに無視だ。

 自分だけ静止画で周りの動きが線のように見えるモーションプラーのように見えてしまい、しばらく正座の姿でラッシュで電車に向かう人たちを見送ってしまった。


「東京って……東京って……」


(デブでブスじゃダメなのかよっ!)

 これが私の東京の印象。


 数年後…

 少し東京の生活にも慣れ、いい感じに酔っぱらっての帰り道。東京駅で乗り換え。京葉線は東京駅って言っていいのか?というくらい、東京駅の中でも外れにあり、結構歩いてホームに着く。


 21時を過ぎると快速電車は無くなり、普通電車のみとなる。夢の国へ続く電車だが周りは酔っ払いばかりだ。


 結構な人がおり、残念ながら座る事はできずつり革に掴まる。前に座っているのはスーツ姿中年男性。何かを一生懸命頭を悩ませながらメモしている。


 プシューッ


 ドアが閉まり電車が発車する。進行方向に置いて行かれた身をつり革が引っ張ってくれる。


「う~~ん」

 中年男性は何かを考えているようだ。なんだろと思って見ているとふと、彼が顔を上げ、視界に私を捉える。


「ねぇ、君はどこ出身の人?」

「え?私ですか?私は静岡県です」


「静岡かぁ、なんか珍しい自分の呼び方ある?」

「自分の呼び方?」


「そう、日本語って自分の呼び方が41種類もあるんだって。それをさぁ探してるの。ほら『私』とか『僕』とか『俺』とか」

「ほぉ41種類、そんなにあるんですねぇ。静岡ではそんな珍しい自分の呼び方は無いですけど…青森の『わ』はどうですか?」


「『わ』かぁ!確かに!それは無かった!」

 素直に笑顔になってメモに書き足す。なんだかこちらも嬉しくなって

「『朕』とかもありますよね?」

 メモを見る男性。

「おぉ!『朕』!確かに!」

 またメモに書き足す。


「沖縄の『わん』と『わー』は?」

 突然後ろの方から声がした。気付くと彼と私の周りに人が集まっていた。

「おぉおぉ!」

 またメモが増える。


「ねぇねぇ、『某』は?」

「あるなぁ」

「あるかぁ」

 いつの間にか皆で考えては言い、もうあると皆でガッカリ。一つの輪になっていた。


 それは私の『東京』というイメージを覆してくれた。いや、まぁ冷静に考えたら千葉の人たちなのかもしれないが、この都会でいきなりできたコミュニティは私の心を和ませてくれた。


 その時住んでいた『葛西臨海公園駅』にあっという間についてしまい、残念ながらさよならをした。


 たった14分くらいの話。それでも歳も性別も全然違う名前も知らない人達との和。楽しい時間だった。もちろんそれ以来お会いする事はない。


おじさんへ


 あの時、突然話しかけられた時は、何?って正直怖かったですが、まさかあんなに多くのたまたま居合わせた人達の心が一瞬で一つになるとは思わなかった。

 今でもあの楽しい暖かい空間を忘れられません。でも大変失礼ながら酔いもあり、あなたの容姿を思い出せません。きっと貴方もたった14分の出会いだったので私の事なんて記憶の片隅にも無いと思います。

 今でも探していらっしゃるでしょうか?41種類メモに書き込めましたでしょうか?今はインターネットがあるからもう検索してしまったでしょうか?

 私がインターネットで調べたらなんと!70種類も「一人称」が日本語にはあるそうです。ビックリですよね。

 

 貴方との出会いのお陰で日本語の面白さに気づく事ができました。そのお陰で今、外国の人に日本語を教えています。まだまだ未熟で日本語の奥深さに頭を悩ませる日々なんですけどね。


 貴方と出会えてよかった。ありがとうございました。貴方を思い出しては日本語の面白さを思い出し頑張れます。

 きっとどこかで今度は違う何かを探していろんな人を巻き込んで楽しんでいる!そう信じてます。

 お元気で  かしこ


 

 



 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一期一会 Minc @MINC_gorokumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画