8 彼女からのメッセージ

彼女を失ってからしばらく経ったある日、僕は部屋の片隅に置いてあった彼女のスマホに手を伸ばした。

彼女の両親から「あなたに持っていてほしい」と渡されたものだ。

ずっと触れずにいたそれは、時間が止まったかのように、彼女が最後に使った状態のままだった。


スマホのロックは、僕の誕生日で解除できた。

その事実に、彼女がいつも僕を思ってくれていたことを改めて感じ、胸が締め付けられる。

ホーム画面には、彼女が好きだった夜空の写真が表示されていた。星が鮮やかに輝いている。


僕は、まず「ライム」というメッセージアプリを開いてみた。

彼女の友達リストはほとんど女友達ばかりで、特に目新しいものはなかった。

メッセージを遡っても、普段の彼女の日常が垣間見えるだけだ。


「何もおかしな点はない。」

そう思い、スマホを閉じようとした時だった。

何の前触れもなく、画面が暗転し、次に何か文字が現れ始めた。


最初はノイズかバグかと思った。

画面に浮かび上がる文字が少しずつ明確になり、僕は息を呑む。


「貴方にどうしても――」


僕はスマホを握る手に力を込めた。

画面には続きが出てくる。


「伝えたいことがあって――」


まるで彼女が僕に直接話しかけているようだった。

僕の胸は高鳴り、頭が真っ白になる。これは何なのだろう。彼女が生前に仕込んでいたメッセージなのか。それとも……。


続きが表示され始めた。


「ごめんねこんな形で」

「でもどうしてもこれだけは伝えたかった」


彼女の文字は、ひとつひとつゆっくりと現れる。

その速度が、かえって僕の心をかき乱した。


「どうして……」

僕は声に出して呟いた。

けれど、当然ながら答えはない。


夜、僕はそのスマホを枕元に置き、じっと見つめていた。

途中のメッセージが残されたままだ。

次にどんな言葉が現れるのか、僕はそれを待ち続けるしかなかった。

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