第14話

 ***




 悪い予感というものはよく当たる。



 いつも悪い未来ばかり想像しているからだ。




 「なあ………侑。お前今自分の立場分かってる?」




 ふう、っと煙草の煙を吐き出し、事務所の社長である八重樫やえがしはデスク上で私と目を合わせる。

 まるで塵でも扱ってるみたいな態度で。

 今だに紙煙草愛用者の八重樫の部屋は、独特な匂いがする。




 「いくら今、綿貫昴生が人気絶頂期と言っても片や仕事もない女優を養うほど、うちの会社は潤ってるわけじゃないんだよ。」




 社長の嫌味にも随分慣れた。

 売れなくなった辺りからこの人は本性を隠さなくなったから。

 どうかすると柄の悪いヤクザみたいな男だ。




 「でもな、そんなお前にもできる仕事というのはある。」




 その飄々とした目を向けられると、やっぱり嫌な予感しかしない。

 ようやく向き合ってくれたかと思えば、社長は腕を組んで、真顔で言った。




 「侑。お前、脱げ。

 ヌード写真集ならお前を撮ってもいいって言うカメラマンがいる。な?

 お前みたいに落ちぶれた女優を綺麗に撮ってくれるって言うんだぞ?

 悪い話じゃないよな?」

 

 


 「…断ったら私はどうなりますか?」




 「そうだな……いよいよクビかな。

 売れない女優なんて、はっきり言ってお荷物でしかないんだよ。

 こっちもビジネスなんでね。」



 言われたのはとても無情な言葉だったが、全く覚悟できてない訳じゃなかった。

 むしろ予想はとっくにできていた。

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