第15話

 不器用で人付き合いが苦手。

 


 どんなに頑張っても場を白けさせてしまい、バラエティ番組はおろかニュースの番宣にさえ出演の声が掛からなくなった。

 だから当然女優の仕事も減る。



 そんな経緯から人前に立つのが億劫になり、営業もマネージャーに任せてばかり。


 

 ネットでは共演者に態度が悪いと陰口を叩かれている。


 

 本当に女優しかできないつまらない女。



 女優でなら役を演じてられるから。自分を曝け出さずに済むから。



 けれど今はマルチタスク型の俳優を求める時代だ。

 テレビのバラエティ番組でも、ニュース番組のゲストでも受け答えがそれなりにできて、面白いことがある程度言えて、空気が読める人。

 私にはそれができない。



 与えられた役を演じる事しか。

 それしか。



 解雇がヌードか。良く考えてみてくれ。

 その2択以外ないと社長は怖い顔をして言った。




 *





 「……侑ちゃん。いよいよ解雇を言い渡されたんだって?」




 「是枝これえださん。」




 どこで噂を聞きつけたのか、是枝は以前から食事の誘いをひつこくしてくる番組のプロデューサーだ。

 今回はこの刑事ドラマで何かと顔を合わせる事が多かった。

 顎にある髭がワイルドだろう?といつも自慢してくる、正直苦手な男。




 「ねえ、もし侑ちゃんが望むなら、僕が社長に掛け合ってあげるし、僕のツテで女優の仕事をいくつか紹介してあげる。

 だから…ね?いつか食事に行こう?」




 この目———この口調。

 昔から人をベタベタと触る癖のあるこの人が、食事だけで終わるはずがない。




 もう………正直、何もかもがしんどい時にきている。




 もしもこの男に体を売れば、私は何か以前の輝きを取り戻せるんだろうか。

 裸になってそれを好奇の目に晒せば、私はまた仕事を貰えるんだろうか?




 そうじゃない。




 きっと落ちていく。




 きっと私は落ちるだけ落ちていくだろう。

 寝たくもない人と寝ればそれも同じこと。




 始まりが頂上だったせいで、落ちた時の上り方が分からずに。




 こんな時にはつい彼の存在を思い出してしまう。




 ————会いたい。もう叶わないけれど。



 

 彼に。もう一度会いたい——………

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