第10話

 もしかすると私も、売れていた時期はこんな風に傲慢だったかも知れない、なんて事をぼんやりと考える。




 「……綿貫くん。はっきり言うね。

 私はあなたの事は、才能のあるいい俳優だと思ってる。

 それに、まだこれからも伸びると思う。

 ただ……

 私はあなたには一切興味がない。

 顔も好みじゃない。だから……ごめんね。」




 「……そっか。

 顔が好みじゃないって言われたら、それはどうしようもないですね。」



 

 言われた事が少し堪えたのか、昴生は少し残念そうに前髪をかき上げた。

 それから深い溜息を吐いた。



 諦めてくれた?揶揄からかいがいがなくて、ごめんね。



 そもそもこんな私に、君のように今人生が一番輝いてる人が興味を持ってるなんて、ありえない。

 



 「だけど……興味を持って貰える可能性はありますよね?

 例え今はゼロでも?」




 話は終了したように思えたのに、昴生は自信ありげに、にこっと笑った。



 「なら……いくらでも待ちますよ。

 侑さんが俺の事に興味を持つまで。

 ————だってもう、要らないんでしょう?

 人生。

 ねえ。侑さん。

 もしも本気で死にたくなったら、最後に俺の事を思い出して下さいよ。

 そしたら……俺が侑さんの人生ぜんぶ、責任を持って引き受けるから。」




 「……綿貫くん。私はあ」


 

 「あ、俺もう行かなきゃ。

 じゃあ、またね。侑さん。」



 もう一度はっきり断ろうとしたのに、昴生は手を軽く振って、部屋からあっさりと出て行った。




 あれは本当に誰なんだろう……?


 

 確実に私が知ってる綿貫昴生じゃない。



 私の人生に責任を持つ……?

 本当に何言ってるのあの後輩は。



 もうあとは坂を転げ落ちていくだけの女に、本当に何言ってるの……?

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