特殊捜索者

Φland

特殊捜索者

 あの頃の僕はまだ若くて、この世には自分を脅かすものなんて存在しないと思っていた。だから、誰もやりたがらないキツクて不気味な仕事をいくつも受けていた。力も時間もあり余っていた僕には丁度良かった。

 そのうちの一つが、遺体探し。自殺者がよくあらわれる場所におもむいて、その遺体をさがす。見つけたら、その場所の座標と遺体の状況を紙に書いて持っていく。それだけの仕事。

 キツそうにみえない?でも自殺する人ってのは、これから死ぬっていうのに妙なバイタリティを発揮するもので、たいていは見つかりにくい所にその遺体がある。おかげで僕は、遺体を求めて日本中の山を隅まで歩き倒した。

 野ざらしの遺体ってのは、ふぅ、慣れるまでは中々こたえる。スーツを着た男性は、風に揺れながら僕を見下ろすミイラになっていた。あるときは、内臓をぜんぶ動物たちに食べさせてしまい、空っぽになった女性がいた。骨だけ残ってることもあった。上から土をかぶって、たけのこみたいにふとももの骨が突き出ていた。正直、骨だけのときはありがたい。そいつは、理科室で見たやつとなんら変わりがないから。

 僕は彼らを見つける度に、神にその様子を事細かく記録する。これは次に来る人が彼らを見つけやすくするために書くもので、それ以上の意味はない。だけど、僕の書くことは、仕事を続けるごとに長くなっていった。


 今、僕は別の仕事をしている。給料の半分は子どもの養育費として支払い、僕は一人で暮らしている。

 冷蔵庫からビールが減るのを眺め、いつ買い足すかを無意識に頭で計算する。酒もそろそろやめなくちゃいけない。タバコはだいぶ前にやめた。だけど、ときおり痰混じりの咳はいまだに出ていた。

 僕はもう若くない。

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特殊捜索者 Φland @4th_wiz_u

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