episode1(3)

同時刻。


城下町を一望できる静謐な城のバルコニーで、神妙な面持ちで首にかけた懐中時計に視線を落とす比類なき美しさを誇る若き乙女の姿があった。


彼女は露出控えめで清楚感がありつつも多少は大胆で目を惹かれるドレスを着用している。


美しい銀髪を風になびかせ、宝石を思わせる群青色の瞳は本来より輝きが薄く今も時計に視線を向けている。


「そこに居たのですね、エンジェレーネ」


そして今、エンジェレーネの背後に姿を現した人物が開口した。


「シャール……」


品があり落ち着きのある声色にエンジェレーネが反応すると、隣には精錬された立ち振る舞いを見せる人形のように顔立ちが整った美女、シャールがいた。


肩まで伸びた艶きらめく紺色の髪とエンジェレーネを見つめる瞳は髪色より深い濃紺色。


フリル飾の漆黒ドレスを纏い膨らんだ胸元は解放的で、スカート丈が短くガーターベルトにより、肉付きのある腿は更に強調される。


加えて彼女は表情をあまり崩さないので人形的とも言えるし、大胆な衣装から蠱惑的とも言えるが何とも形容しがたい雰囲気を醸し出している。



「ごめんなさい、何も言わずに離れてしまって。色々考え事をしていたら風にあたりたくなって……」


「お気になさらずに。今日、ずっと待ち焦がれたルシア様と十年の時を経てお会いするのです。心がざわめくのも無理ありません」


「そうね……彼と会える事で蓄積された思いが解放される気持ちと、それ以上の不安が混ざり合って今でも胸が張り裂けそう。シャールも知っているでしょ?彼の記憶はーー」


まるでエンジェレーネの話を遮るかのように、城壁の門は重々しい音と共に開かれバルコニーにまで届いた。


「ぁーー」


思わず声が裏返る。


見下ろす視線の先に現れたルシアを見た瞬間、全身の血が沸騰する様な感覚が起きて自然と涙が溢れそうになるが堪えた。


半分冷静さを失ったエンジェレーネは飛び出す勢いでバルコニーを後にするとシャールも後に続いた。







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