episode1(2)

外壁で覆われた王都は王国有数の都市の中で無類の広さを誇る。


幅広い歩道には異国情緒を思わせる人々で溢れ、人を乗せて荷物を牽引するアルビオンキャリッジが活発な往来を見せる。


アルビオンとは王国固有の二足歩行動物の名称で、白色の固い鱗と立派な二本の角がある事から竜のルーツを持つと言われている。


キャリッジ屋はどの国にも展開しているが牽引する動物は異なり乗り心地やサービスなど差異がある。


「やぁ、いらっしゃい!アルビオン単体の貸付も受け付けているよ!」


王都の正門を通り付近に経営していたキャリッジ屋に立ち寄っていた。


「実は王都を訪れたばかりで、御者の方に先導してもらえる事は出来ますか?」


「おや、てっきりお兄さんの雰囲気から同郷人と思ったよ。さて、御者を担当するのはワシだ。王都の隅々まで案内するよ。希望はあるかな?」


御者で初老の男性は親切に地図を広げてくれた。



「そうですね、ゆくゆく王都を巡りたいと思ってるのですがガーランド城までお願いしたいです」



「それは構わないが、事前に請願書を近衛騎士団へ届出を済ませて謁見証を受領されないと王様には会えぬよ?いや、その様子だと要らぬ心配だったかね?」


御者の男性は白髪混じりの顎髭を触り謎に得意げな表情を見せているが彼も的を得られ静かな笑みを浮かべて頷いた。


「おっと、自己紹介が遅れてしまった!ワシはグルグ。そしてようこそ王都リネスへ!良い旅路にしよう」


「ルシアです。グルグさん、どうぞよろしく」


その後、全てが新鮮な景色に気を取られながら御者歴が長いグルグから王都にある各施設の説明などアドバイスを受けたり他愛のない会話に受け答えしながら道なりを進んでゆく。


肝心のアルビオンキャリッジの乗り心地だが、元よりアルビオンは賢く人に従順である事と、御者であるグルグの技術のおかげで非常に快適である。


「ルシア君、城下町に着いたよ。見てごらん、世界に一つだけのクリスタルタワーを」



城下町の中心に設置された巨大なクリスタルは王都の壁を越える高さで、王国の威厳を一層引き立てている。


「凄い……建国の丘から見ても相当な大きさだったけれど、間近で見ると迫力が桁違いですね。クリスタル発祥の地で鉱床国とも呼ばれるのも理解できる」


「まぁ、今となってはクリスタル自体は世界に流れ異なる技術により進化を遂げてはおるが、懐古を重んじるイベル王国のクリスタル技術はむしろ一進一退ではあるよ。全然不満はないがね」


このクリスタルタワーは独占当時の遺産と言うべきだろう。


(時が未来に進んでも心は過去に留まり続けている僕にも刺さる言葉だ)


ルシアはふと、クリスタルに合わせていた視線を上げた。


王都の至る所から見上げると頂上にある荘厳な二つの城の存在は、クリスタルタワーに続いて見事なランドマークとなっている。


王都全体の景観を損なわない為か、外観は寸分違わず同じデザインで隣接しているので背景を知らなければ二つで一つの城と考えてしまうだろう。


「名残惜しいがもう少しで到着だ。それまで王都の風景を楽しんでおくれ」


「はい、そうさせてもらいます」


お言葉に甘え四方に木霊する民の賑わいに耳を澄ませ美しい街並みにただただ感銘を覚えた。


当たり前で平和な日常に懐かしさを覚えたから。

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