プロローグ(2)

世界が夜更けを迎えた頃のとある一室。


格式高いカーテンの隙間から月の光が差し込む広々とした寝室では、銀色の懐中時計から静かに流れるオルゴールの音色に耳を澄ませ、物思いに耽る息を呑むほど美しい幻想的な女性の姿があった。


見た者が一瞬で引き込まれる群青色をした宝石のような瞳と、腰まで伸びた銀色の髪は艶々しく髪の毛一本一本が芸術に値する。


水色のネグリジェを羽織っていて細身でありながらも女性の部分はとても豊かだが胸元は露出せず清楚を崩さない。


そんな女神のような女性が眠り落ちる瞬間。


「……え?」


憂いた表情に消え入りそうな声色を発した。


何故なら、懐中時計から鳴るオルゴールが前振りもなく鳴り止んだからだ。


彼女は咄嗟に体を起こし、懐中時計の側面にある仕掛けを押したが、オルゴールが作動しないどころか秒針も止まっていたのだ。


(そんな……故障、それとも経年の劣化?ずっと、ずっと彼が帰って来るのを望みながら使用していた代償とでも言うの?)


どうやら彼女にとって懐中時計の存在はかけがえのない宝物のようだ。


「ルシア……」


そっと懐中時計を胸に当てながら人物名を囁いた。




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