球体子は落ちる
私達は向かいの部屋の扉を少し開けて中を覗いていた。椅子やテーブル、簡易な天井照明。いたって普通な部屋があるだけで誰もいなかった。
「とりあえずここに入ろうよ」
男の子に言われて少し寒い廊下を背に部屋に入った。
窓が無いのにカーテンがあり閉まっている。空気の出入りが扉からしかないからか、外の音があまり聞こえず他とは違い静かな部屋だった。けどやっぱ少し冷えている。
埃の被った灰色の硬い布の椅子が2個あり、私と男の子は向かうあうようにして座った。
「僕の名前はダド!」
とにっこり笑ったダド。
「僕は君を助けにここまでやってきたんだ。でもあまりの恐怖に隣の部屋で隠れていたんだよ!」
楽しそうに、壮大に話し始めるダドは敵意なんて無いよと言わんばかりの表情だった。
「おそらく状況があまり分からないと思うけど、とにかく君はあの仮面男に拉致監禁されてるんだよ!」
記憶にはないけど、どうやら仮面の男にこのボロボロな家に監禁されているらしい。だけど気になる事がいくつもある。
まずなんで仮面を付けているのか。私を監禁してると言っていたし警察にばれたくないからなのか、それとも単純に素顔を見られたくないからなのか。いくら考えても意味もない。意味もないのでもうこれを考えるのはやめよう。
もう一つ気になるのが、私は監禁されてるのに拘束もせずベッドに寝かせておいたり、飲み物を提供したりと普通に接しているように見える。まぁこれも、考えても埒があかない。無意味なので考えるのをやめよう。
突然私の両手を取りめを見て言う。
「ねぇ、僕と一緒にこんな所から抜け出さない?」
なぜか胸がぎゅっと握り締められるように苦しくなった。でもその苦しみは全然嫌な気はしなかった。むしろ心地よささえ感じた。
気づけば涙を流していて、何か言いたかったけど嗚咽しか出なかった。ダドは何も言わずに私を抱きしめてくれていた。冷たいけど、とても暖かかった。
二つの鼓動が温もりを分け与え合っている。私に愛を向けている。私に愛を感じている。
でも私はあなたを抱きしめられなかった….。
虫の息ほどの天井照明が付いた冷たく静かな部屋で2人が抱き合っている。
だがそれは突然やってきた。
とん、とん、と扉を軽く叩く音が鳴る。
それは鳴り続けた。鳴り止まずに見ているぞと言わんばかりに。
鳴った瞬間に抱き合っていた私とダドはばっと離れた。
部屋が揺れだす。私とダドが立っていられず倒れ込んでしまう。
途端に揺れがおさまる。ダドは倒れた時に頭を打ったらしく頭を手で軽く抑えている。すると扉がゆっくりと開く。
そこには、高身長の頭が半分ないあの男がいた。
「なんで今来るの!」
男は一つ一つの動き全てがゆっくりで徐々に私達に近寄ってくる。低く唸るように呼吸をする男からは物凄い圧力を感じ、押し潰されそうになる。
「ダド!行くよ!」
私は涙を流しながら、ダドの手を取った。
男と扉との距離が少し空いたのでその隙をついて、ダドと一緒に男の後ろを走り過ぎた。
「はぁ、はぁ、もっと離れないと、ダド!」
振り返り、ダドの方へと顔を向ける。
「ダド?」
「あ….あがっ!….」
「ダド!」
ダドの右腕が無かった。
ダドの右脚が欠けるように抉られてた。
「あ、だ、ダドぉ!そんな….!」
ダドが座り込み私は抱きしめた。ぴちゃぴちゃと右肩から血が吹き出ている。
「やだ!ダド、死んじゃいや!」
きゅきききききー。
扉がゆっくり開いき、男が私を見下ろしていた。私はダドを抱えながら急いで次の部屋に入った。
入ったそこは、カビで埋もれた全面灰色の浴室だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます