第64話 煽って分からされる所まで含めてワンセット
怪鳥さんを見て、目をまんまるに見開くユキノ。
そんな彼女の頭をポンポンと撫でつつ、二人でヴァッサーブラット領へ向かう。
空の景色に目を輝かせる姿は、とても微笑ましかったのだが――。
脱いだ着物が風に飛ばされかけて全裸になったり、 眠っている間に俺にギュッとしがみついてきたり。
可愛さよりも先に理性を削る攻撃が飛んでくる時間だった。
「あ、御主人様、お帰りなさいませ! って、今度は鬼人族ですか!? しかも、はあぁ……白髪で、色白で、小さくて、可愛いですねー!」
そんな試練に耐えきり、領主館のエントランスホールに入れば、アイルがよしよしとユキノの頭を撫でる。
ここまで真っ直ぐな愛情を向けられた事がないのだろう、ユキノが照れたようにはにかみ、アイルが鼻を押さえた。
「ユミリシス、帰ッテイタノカ! ム? コノ匂イ……友タチト、少シ似テイル?」
ちょうど散歩から帰ってきたらしいメラニペが、玄関からやって来て小首を傾げる。
そしてユキノを見ると、ハッとした表情になる。
「白イ髪ダ! 凄イナ、綺麗ダ! モットヨク見セテクレ!」
「――、――!」
あわあわするユキノだが、メラニペに害意がない事が分かるのだろう。
髪の毛をペタペタされて恐縮しつつ、嫌がってはいなかった。
「なんだか随分と騒がしいですね……って、へぇー、おにーさん、また新しい女の子を、それもこーんな小さい子を連れてきたんですね」
騒がしさを聞きつけてやってきたウルカが、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「おにーさんって、やっぱり幼女趣味ありますよね? 小さな女の子が大好きで、興奮しちゃう変態さんですよね?」
ウルカの言葉を聞いたユキノが、ビックリした様子で俺を見つめてくる。“そうなの?”と言いたげな顔だ。
「誤解されるような事を言うんじゃない」
「そうですよね、おにーさん、私の事が大好きですもんね」
ペロッと舌を出してあざといポーズを取るウルカ。……またベッドで分からせねばなるまい。
そんな予想外の賑やかさになったエントランスホールに、さらに騒がしい忍びが一人。
「御館様、報告でござるよ。って、ロリロリの鬼っ娘キタコレ!?」
俺から学んだオタク用語を使いこなす様子を見ていると、微笑ましくなるが……先に報告しような。
「ほら、みんな解散だ。アイルはユキノを部屋に案内してやってくれ。ネコミは執務室で報告を頼む」
そんな風に指示を出してから、ほどなくして。
執務室でネコミの報告を聞き終えた俺は、顎に手を当てて考え込む事になるのだった。
「メンショウ帝国の行軍が予想より早い、か」
「流石でござるなー。あれだけの大軍でありながら、この行軍速度。やはり最強国家の名に偽りなしでござる」
「ネコミの忍法で進軍の妨害は出来るか?」
俺の言葉を聞いたネコミが「むむむ……っ」と考え込む。
「主だった武官と軍師が揃い踏みしてるから、やれて一週間ほどでござろうか。それでも予定より早く到着するでござるよ」
「さらに一手必要って訳か……ん?」
地図を見て目についたのは、メンショウの進路上にある大きな河川だ。
「なぁ、ネコミ。この河が氾濫したらメンショウの侵攻は遅れるよな」
「それはそうでござろう。え、そんな事も出来るでござるか?」
「いや、俺には出来ないが“彼女”なら出来ると思う」
メラニペ率いる魔獣軍団の紅一点。
人間と違い雄の方が強い魔獣の中で、雌の身でありながら三大魔獣の一角にまで上り詰めた存在。
「水辺にて最強の水妖さん……彼女の力を借りよう」
「スイヨウサン? 誰でござるか」
「そうか、ネコミは水妖さんを知らないのか」
「初対面でござる」
「じゃあ丁度良い、紹介しておこう。今後水辺が絡む作戦で協力する可能性もあるしな」
と言いつつ、もう夜も遅いという事で、明日連れて行く事になった。
そして夜になり、ちょうどウルカとする日だったので、彼女の部屋に行ったのだが――。
「あ、おにーさん。ほら、見てください、ユキノちゃんから借りてみました。ふふ、おにーさん、フソウの着物が好きみたいですし」
ミニスカ着物をヒラヒラさせるウルカが、いた。
ユキノより背が高いぶん、ミニスカの丈が凄いことになっている。
「……えっと、おにーさん? 何だか目つき、怖くないです?」
「悪い、ウルカ。どうしてもキツかったら言ってくれ」
「あ、ちょ、おにーさ――」
……その後、ウルカがまるまる二日動けなくなった事をここに記しておく。
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