第63話 策謀は巡らせるが、それはそれとして幸せにしたい

 俺は怪鳥さんとの合流予定ポイント、その付近にある洞窟に来ていた。


 焚き火をたきつつ、第二能力で極上のベッドを用意し、そこに少女を寝かせる。


「……眠っていると、余計に幼く見えるな」

 

 小さな二本角にそっと触れつつ、頭を撫でる。


 こんな見た目であれほど激しく戦い抜くのだから、原作の強キャラは恐ろしい。


「……、……」

「お、目が覚めたか」

「――――!」


 目を開けた瞬間、少女が引きつった表情で立ち上がる。


 自分を散々おどした黒兜が目の前にいるのだから、もっともな反応だろう。


「ここは戦域から離れた洞窟だ。ちなみに、戦はフソウの勝利。キノカはフソウに併合された。戦いが終わったから、こちらに敵対の意志はない」


 俺の言葉を聞いた少女は、ヘナヘナとベッドの上に座り込む。


「これでお前の帰るべき場所はなくなった訳だ。もっとも、戦争の為の兵器として作り替えて、言語機能すら失わせる国が“帰るべき場所”だったかははなはだ疑問だがな」

「……、……」


 俺の言葉を聞き、悲しげに眼差しを伏せる少女。


「帰る国を失った事が悲しいのか?」


 ふるふると左右に首を振る。


「倒すべき敵がいなくなった事が悲しいのか?」


 ふるふると左右に首を振る。


「……空っぽになってしまった事が、悲しいのか?」


 こくん、と、首を縦に振った。


――決戦兵器“夜叉雪”。目の前の少女は、正史ではヤエに敗北したのち、フソウの捕虜になる。


 そして巫女姫の優しさに触れて忠誠を誓い、フソウの武官として活躍する事になるのだが……。


「だったら、俺と共に来ないか?」


 優しく語りかけるようにしながら兜を取り、素顔を晒した。


「……っ」


 俺の顔を見た少女は驚きで目をまんまるにし、頬を赤らめる。


 東方のマイナー国家であるキノエでは、コーカソイド系の顔など見る機会すらないだろう。


 高めた統率と相まって、印象値はバッチリのはずだ。


「キミが失ったものは、俺のせいでもある。その責任を取らせてくれ。俺がキミに、生きる理由を用意しよう」

「……?」


 “何を用意してくれるの?”と尋ねるように小首を傾げる。


「俺の為に生きてくれ。俺の大切な人を守ってくれ。もちろん暖かい食事と安心出来る寝床も用意する」


 少女の顔に浮かぶ動揺。

 俺は畳み掛けるように手を取り、瞳を見つめる。


「俺にはキミが必要なんだ。兵器としてのキミじゃない。人として、武官としてのキミに、守る為に力を振るってほしい」

「……、……」


 困惑の表情を浮かべる。

 意図を汲み取るなら、貴方は強いのにどうして、だろうか。


「俺の身体は一つしかないんだ。仕事を任せられる人材は多ければ多いほど良い」


 そうすれば余暇も増えるし、とは言わないが。


「だからこうしてキミに頼っている。俺にはキミが必要だ」

「――――」


 こう言えば彼女の心を動かせるだろう、という打算もあるが、その心を救えるなら救いたいとも思う。


 やはり原作の人物には、少なからず想いを向けてしまうから。


「――ぁ、……、…………」


 嬉しさがあふれ出して、何かを言おうとして……声が出なくて悲しげにうつむく。


 そんな少女を見て、ポンポンと頭を撫でる。


「気持ちは伝わってる、大丈夫だ。――よろしく頼む、ユキノ」

「――!!」


 もはや誰も呼ばなくなった彼女の名前。それを呼んだ事が決定打になったのだろう。


 氷が溶けて美しい水滴となったような、そんな涙を零しながら、こくんと頷いてくれた。


――なお、その後。


 夜も遅いという事で、洞窟で一晩を明かす事になったのだが……。


 ユキノが裸を見せる事に無頓着なせいで、何度も明鏡止水の境地に至る事になった。


 ミニスカ着物を洗う為に平然と全裸になったり、全裸のまま寝るくせに暑がって掛け布団から抜け出て、無防備な姿を晒したり……裸族は心臓に悪すぎる。


 出来れば嫁たち以外にそういった気持ちを向けたくないのだが、ままならないものである。

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