第62話 鬼人族の決戦兵器に格の違いを見せつける
「……!?」
乱入した俺に対し、驚きと警戒の眼差しを向けてくる白髪の少女。
「あ、貴方様は、一体……?」
一方の巫女姫は、
「俺の名はシス、皇国を見守りし月神の使いだ。月神の御心により助太刀する」
巫女姫に返事をした直後に飛んできた少女の拳、それをノールックで掴みとる。
「キノカの夜叉雪……この程度か?」
「……!」
挑発への返答は鋭い蹴り。
その蹴りも
「うおっ!?」
慌てて少女を投げ飛ばす。……そう言えば鬼人族は履かない種族だったな。
チラリと戦況を見回せば、混乱してまともに動けないフソウの部隊が次々と撃破されている。
……キノカにはもう少しフソウの兵力を削ってもらうか。
「さぁ、どうした夜叉雪。お前の力はその程度か?」
「――!!」
カッと目を見開いた少女は一瞬にして俺の前に現れ、一呼吸の間に拳と蹴りの乱打を繰り出す。
目にも止まらぬ速さだが、ヤエとの稽古に比べればヌルい。全ての打撃を片手で的確に防いでいく。
ただ一つ問題があるとすれば、少女が動く度、乱れた服の隙間から色々なモノが見えてしまう事だ。
これはよろしくない、非常によろしくない。
「っ、シス様……! 今、支援いたします……!」
どうやら自分に回復術を掛けて、動けるようにはなったらしい。
ボロボロの状態でこちらを助けようとするが――。
「いや、問題ない。もう戦わなくて良い、休んでいてくれ……頑張ったな」
「ぁ……」
巫女姫が目を見開く。
戦勝の巫女を強いられてきた彼女にとって、“戦わなくて良い”という言葉は衝撃だったのだろう。
「……さて、そろそろ実力の差は理解出来ただろ?」
「――、――」
荒い息を吐いて
「仕方ない……真の絶望を教えてやるとするか」
……というか早く戦意喪失してくれ、これ以上は刺激が強すぎる。
そんな気持ちを込めて、第二能力により一振りの大剣を生み出す。
「キノカの国の切り札、兵器として作り替えられたその人生に終止符を打たせてもらう」
第一能力を発動し、ヤエとの稽古で身についた【剣術】スキルを一時的にLv5に。
途端、圧倒的な力の本流が全身を包み込んだ。今なら神すら切り裂けそうだ。
……これがLv5の世界か、凄いな。
「――っ、――」
恐怖に目を見開く少女に向けて、大剣を振り上げ――当たる直前に、ピタリと寸止めする。
「…………ぁ」
呆然とした表情のまま剣を見上げて、ペタンと座り込む少女。
水音と共に広がるアンモニア臭を努めて無視し、巫女姫の元へ向かう。
「えっと、その……」
近くでよく見れば、大人びた雰囲気の中にも年頃の少女らしさがある。ルリと同じ年齢である事にも納得だ。
巫女服からこぼれ落ちそうなほどの膨らみを努めて無視しながら、あえて威圧的に話しかける。
「巫女姫。この戦いの総大将、俺に預けてくれないか」
「え、あ……いえ、それは、」
「預けてくれないか」
「ひゃ、ひゃいっ!」
よし、これでフソウ軍の総指揮権が俺に移った。
今この瞬間だけは、俺の統率値を用いてフソウの軍勢を動かす事が出来る。
「――キノエ王国の“夜叉雪”、月神の使いたるこのシスが討ち取った!! 巫女姫も無事であるッ!! フソウ全軍、我に続け!! 神の恩寵、我らにあり!!」
統率を跳ね上げて、戦場に響き渡る大音声で叫び、櫓から飛び降りる。
そして、土煙と共に大地の上に着地し――大剣を携えて突貫。キノエの軍勢を蹴散らしていく。
最初は戸惑っていたフソウ軍も、俺の統率に当てられて士気と勢いを取り戻した。
能力値のゴリ押し、バンザイ。
「我らには神々の加護がついておるぞ! 進め、進め――――!!」
「さぁさぁさぁお前たち、神様にアタイたちの戦いぶりを見せつけてやりなぁ!」
原作に登場する戦術級指揮官たちが積極的に声を上げれば、ますます部隊は意気軒昂する。
……結果は語るまでもないだろう。かき集めた軍団が壊滅したキノエ王国は、全面降伏するのだった。
そんな戦いの後、いったん戦域から離れた俺は今、木の上から戦場跡を眺めていた。
「士気の高さと勢いで誤魔化したが、フソウ側も実質壊滅状態……か」
これでフソウも年単位で軍事行動が出来なくなるだろう。
そんなフソウに“シス”として近づき、今後の動きをコントロールする。その布石を整える事が出来た。
そして――。
「……後はこの子を配下に出来れば、一先ずのミッションは終了だな」
小脇に抱えた白髪の少女。気絶している彼女を休ませる場所を求め、俺は戦場を後にするのだった。
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