第57話 SAN☆REN☆DA

「「………………」」


 パーティが終わり、迎えた夜。新婚初日の夜。


 俺は今、ルリの部屋で彼女と二人きりだった。


 互いにベッドに腰掛けながら、つかず離れずの絶妙な距離を空けている。


「……いよいよ、なのよね」


 口火を切ったのはルリだった。


「あぁ……いよいよ、だな」


 互いの間に漂う緊張感。張り詰めた弓のような空気。


……いや、これ初夜だよな?


「何でこんなに緊張してるんだ、俺たち」

「それはその、だって、ん……遂に、そういう事する訳だし……」


 頬を染めて明後日の方向を向くルリ。


 その姿が余りにも可愛すぎて、すぐにでも押し倒したくなる。


 だけど怖がらせたらどうしようと思って――いや、そういうのが良くないんだ、きっと、たぶん。


「ルリ……俺、ルリが好きだ」

「なっ、何よ急に……それは、アタシも好きだけど、ひゃっ!?」


 ガシッとルリの肩を掴み、こちらを向かせる。


 驚きで目を丸くした顔。紅玉のような赤い瞳に魅入られながら、言葉を続ける。


「好きだから、抱きたい……正直、我慢出来そうにないんだ」

「ふ、ふーん、そう。そんなにアタシとエッチな事がしたいんだ」


 満更でもなさそうな顔。俺に求められて嬉しい、のだろうか。


 そんな顔を見てしまえば、もう我慢出来なかった。


「きゃっ!?」


 ベッドに押し倒されたルリが可愛らしい悲鳴を上げた。


 長く美しい髪が金砂のようにベッドに広がり、鮮烈な赤いドレスに包まれた肢体が無防備に晒される。


 ベッドを照らす月光に包まれた姿は、呼吸を忘れてしまうほどに美しかった。


「ルリ……キス、しても良いか?」

「……、ん」


 ゴクッと唾を飲み込んだルリが、少しの間を置き、瞳を閉じた。

 

 長い睫毛を小さく震わせる様子が、初めて素面でキスをした時を思い出させる。


「悪い、ルリ。先に謝っておく。たぶん、キスしたらもう止まれない」

「へーき……アタシも、同じだから」

「同じ?」


 キス待ち顔だったルリが、バツが悪そうに片目だけ開く。


「シたくて堪らなかったけど、エッチ過ぎて引かれたらどうしようって思って、それで……うん」

「――――ッ!!」

「あっ……」


――こうして、俺たちは以前より素直になれるようになった。



 そして翌日の夜、今度はメラニペの部屋で彼女と二人きりだった。


「ヨシ! 交尾ノ時間ダナ! イツデモ良イゾ!」


 ベッドの上に立ち、さぁばっちこい、と言わんばかりに笑っているメラニペ。


 その純粋な笑顔が眩しくて、逆に不安になってしまう。


「そもそもメラニペ、どのくらい知識があるんだ?」

「友タチカラ教エテモラッタ! ズッコンバッコン、スルノダロウ?」

「それはそうなんだが……初めては痛いし、それに子供を作る事になるんだぞ。良いのか?」


 きょとん、とした表情になった後、再び明るい笑顔を浮かべる。


「痛ミニハ強イシ、ユミリシスダカラ! 何ヲサレテモ平気ダ! ソレニ子供モ欲シイ!」


 開いた窓から流れてくる心地よい風が、豊かな黒髪を靡かせる。


 初夜の為に着直してくれた白いドレスが、月光を浴びてキラキラと光る。


 純真無垢な天使のような彼女を前にして、思わず硬直してしまった。


「ン? ア、ソウカ! 交尾ダカラ、服ハ脱グモノダナ!」

「いや、それは待ってほしい」


 ドレスを脱ごうとしたメラニペを真顔で止める。


「ン? 着タママデ、良イノカ?」

「その方が良いと思う」

「ムムム……」


 何かを考え込むように、ウンウン唸るメラニペ。やがてハッとした表情になると、ベッドにダイブした。


「メ、メラニペ? どうしたんだ?」

「ウム! 人間ハ向キ合ッテスルト聞イタガ、ヤハリ、後ロカラデ良インダナ!?」


 言うが早いか、女豹のポーズをするメラニペ。布地の上からでも分かるお尻の形にドキドキが止まらなくなる。


「ワ! ユミリシス、発情シタナ!? ヤハリ友タチト同シダッタカ!」

「……もしかして、俺をその気にさせる為に?」

「ソウダゾ! ワタシハ早ク、ユミリシスト求メ合イタイ!……ダメ、カ?」 


 健気な気持ちが伝わってくる。潤んだ瞳には、恋しい男を求める色が確かに宿っていて……。


――人間って薄皮一枚はがせば獣なのだなぁ、と思い知らされた夜だった。



 そして新婚三日目の夜、ウルカの部屋にて……俺はいきなり押し倒されて、馬乗りされていた。


「う、ウルカ? ちょっといきなり過ぎるんじゃないか?」

「だって三日目じゃないですか。こうやって女の子からされる方が、おにーさん的にも良いんじゃないです?」

「いや、それは余り関係ないかな……」


 俺の結婚指輪が持つ効果の一つに武勇と魔力の大幅アップがある。その影響からか、どうやら“そっち方面”も強くなったらしい。


「え……だ、だってルリお姉様とメラニペお姉様、あんなに歩くのも大変そうで……」


 目に見えて動揺するウルカ。しかし、無理やり気持ちを落ち着けたらしく、すぐにニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「へぇー、つまりユミリシスおにーさん、散々シたのにまだ足りなくて、私ともシたくて仕方ないんですね、こんな小さな女の子と」


 ドレスのスカートを持ち上げて煽るウルカ。


……これは、久しぶりに分からせてやらねばなるまい。


「ああ、シたい。メチャクチャにしたいぞ、ウルカの事」

「え、あっ――」


 互いの上下を入れ替えて押し倒し、真下にあるウルカの顔をまっすぐに見つめる。


「ぁ、お、おにーさん……」


 淡く光る月の色にも似た瞳。窓から差し込む灯りを受けて煌めく、透明感のある銀灰髪。


 幼い柔らかさを湛えたウルカの顔が、ドキドキと驚きに染まる。


「っ、お、おにーさん……ほ、本当に、私に……?」

「あのな、出会った当初ならいざ知らず、俺はもうウルカの事が大好きなんだ。好きな子に性的な挑発をされて我慢出来る訳ないだろ」


 現代日本で言えば、制服を着始めたくらいだろう。

 前世ならアウト判定だが、この世界は美少女ゲームの世界だ、関係ない。


「俺が今までどれだけ我慢してきたか、分からせてやる」

「……えへへ、はい。つよつよなおにーさんの力で、私をよわよわにして下さい♡」


――これまで散々煽られてきた分、激しくなってしまったが、こればかりは仕方がないと思う。



 そうして、三人との初夜を終えて、新婚四日目の夜。


「あ、御主人様。御主人様もお月見ですか?」


 散歩がてら庭先に出た俺は、アイルとばったり遭遇するのだった。

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