第56話 最高に可愛い嫁たちとともに
式が終わればパーティの時間だ。
メラニペは目を輝かせて料理に突撃し、ウルカは辺境伯を労りに向かい、そしてルリは――。
「久しぶりね、ルリちゃん。元気そうで嬉しいわ」
「あ、えと、リリスリア様……。は、はい、お陰様で元気、です」
リリスリアに話しかけられて、カチコチに固まっていた。
「久しぶりだな、リリスリア」
「あら、ヴァッサーブラット卿。ええ、お久しぶりね。招待状を貰った時はビックリしたけれど……ふふっ、来て良かったわ」
微笑みながら見つめてくるリリスリアに、ルリが気恥ずかしそうな顔をする。
「以前もルリちゃんって呼んでたな。二人は仲が良いのか?」
「えっ、あ、いやっ、仲が良いっていうか、うぅ……」
「ふふっ、そうね。ルリちゃんの母代わり……と言った所かしら」
なるほど、晴れの姿を親に見られて恥ずかしがっているという訳だ。
「ルリちゃんに魔法の基礎を教えたのも私なのよ。すぐに一人で学びを深めるようになったけれど」
「り、リリスリア様の教え方が良かったからです、はい」
そんな風に畏まったルリの姿が珍しくて、思わず言葉が口からこぼれる。
「可愛いな……」
「なっ、きゅ、急に何よ!」
「いや、珍しいルリの姿が可愛いなって」
「ああもう、すぐそうやって可愛いとか言う! は、恥ずかしいからやめなさいよね……っ」
顔を真っ赤にして俯くルリ。
いつまで経っても不意打ちに弱い、そんな所も愛しい。
「こんなに可愛いルリちゃんの姿が見られるなんて、生きていて良かったわ」
「り、リリスリア様まで……! んんんっ、ワイン、取ってきますっ」
足早に離れていくルリを苦笑と共に見送れば、リリスリアが声を掛けてくる。
「ありがとう、ヴァッサーブラット卿。ルリちゃんのあんな顔が見られるなんて思わなかったわ」
「ユミリシスって呼ばないんだな」
「あら、だって親しげにしたらルリちゃんを嫉妬させちゃうもの。それとも、私の事も貰ってくれるのかしら?」
主役が花嫁だという事を心得た、派手すぎないドレス姿。それでも匂い立つような色香は健在だ。
そんな彼女が妖艶に微笑むものだから、心臓に悪い。
しかし。
「リリスリアのそれは愛情じゃなくて狂信だろ? じゃあダメだ」
「ふふっ、そういう所がルリちゃんを安心させるのね、きっと」
言い終えた後、リリスリアの顔が“母親”から“魔導都市取締役”へと変わる。
「状況が落ち着いたら、魔導都市に来てくれると嬉しいわね。色々と話したい事もあるし、それはきっと貴方にとっても有益だと思うから」
「ああ、分かった。……指輪について聞かなくて良いのか?」
式の最中に彼女が見せた態度を思い返し、問いかける。
「こんなにもおめでたい日だもの。ドロドロしそうな話はまた今度、ね?」
「なるほど、そうだな」
微笑んだ後、手を振って去っていくリリスリア。
そんな彼女を見送ったのち、ルリに一声掛けてからウルカと辺境伯の元に向かう。
「お疲れ様です、辺境伯。司式者を務めて下さり、ありがとうございました」
「やぁ、ヴァッサーブラット卿。いやいや、こちらも素敵な思い出を作る事が出来たよ。ウルカの可愛らしい姿を見る事も出来たしね」
「はい、ユミリシスおにーさんをいっぱい釘付けにしちゃいました」
ふふん、という表情のウルカに対し、うむうむ、と微笑ましそうに頷く辺境伯。
いつもより子供らしさが前面に出ているのは、辺境伯の前だからだろうか。
「普段からそのくらい素直なら、もっと可愛げもあるんだけどな」
「でもユミリシスおにーさん、そんな私が大好きじゃないですか」
「胸のドキドキを抑えるのも大変なんだぞ」
「おにーさんこそ素直になれてないじゃないですか」
そんなやり取りをしていると、辺境伯が「はっはっは」と楽しげに笑う。
「ああ、やはりヴァッサーブラット卿に託して正解だったよ。ふふ、まさかウルカがこんな風に誰かと言い合える日が来るとはね」
「お父様……」
ウルカの顔に浮かぶ寂しげな色。
普段は見せないが、心の中では常に辺境伯の天命を憂いているのだろう。
「……、辺境伯、いえ、クリシェン殿。ウルカが正式に妻になりました。どうか俺に辺境伯を襲爵させて下さい」
「なるほど。爵位を手放せば、領地を離れてウルカの近くで暮らす事も出来る……か」
頷きを返せば、ウルカがハッとした表情でこちらを見上げる。
「クリシェン殿は今や俺にとっても父です。……俺は若くして父を失い、何一つ孝行が出来なかった。だから少しでも貴方の為に何かがしたいんです」
「そうか……、そうだったね。ふふっ、そうか……ああ、私は本当に幸せ者だね」
何かを噛みしめるようにそう呟いたあと、辺境伯は微笑みながら頷いてくれた。
「それでは、ヴァッサーブラット卿……辺境伯の地位、貴方に託そう」
「はい。受け継がせてもらいます」
そんな俺とクリシェン殿のやり取りを、ウルカがじんわりと涙を滲ませながら見つめていた。
その後、二人から離れてメラニペの元へ……向かう途中で、隅っこでガタガタ震えているフローダを見つけた。
フローダに早めに帰って良いぞ、と促してやりつつ、改めてメラニペの元に歩み寄る。
「メラニペ、食べてるか?」
「ン、イッパイ食ベテイルゾ!」
楽しげに食べるメラニペと綺麗な皿を見て、彼女がウチに来たばかりの頃を思い出す。
当初は汚れを気にせず、手づかみで食べていたメラニペ。
そんな彼女は、誰に言われるまでもなく、いつの間にか正しい食べ方やマナーを学んでいた。
「いつも頑張ってくれて、ありがとな」
「ン? 何ノ事ダ? ワタシハ友タチト遊ンデ、ソノツイデニ見回リシテルダケダ!」
ずっと森で暮らしてきた彼女が、人間の社会に馴染む為にしてきた努力。
そこに思いを馳せただけで、気持ちが溢れてきて――気がつけばメラニペを抱きしめていた。
「ワッ!? ド、ドウシタ、ユミリシス!? ト、突然……」
頬を赤くしてあわあわするメラニペ。そんな彼女がなおさら愛しくて、頭を撫でる。
「ン、ヨク分カラナイガ……ユミリシスノ手ハ、ヤッパリ温カイナ」
「メラニペの身体も、陽だまりみたいで暖かいぞ」
「エヘヘッ」
笑い合った後は、二人で一緒に料理をたらふく食べていく。何故なら、しっかりと精をつけておく必要があるのだから。
そう――三人の妻を迎えるという事は、つまり夜のアレも三夜続くという事なのだから。
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