第54話 それが侵略者なら女の子でも容赦はしない

 三人を投入したのだから、捕縛も楽勝――という訳にはいかなかった。


 大雨が降ったり、突風が吹いたり、こちらに致命的な失敗が訪れたり、相手に奇跡的な幸運が訪れたり……。


 メラニペが目を回し、ネコミが「もう勘弁でござる」とボヤき、ヤエが愉しげに笑い、その果てにようやく捕縛に成功したのだった。


 そして捕縛された彼女は現在、牢屋の中で大の字に寝転がっていた。


「はあぁ……私の輝かしい星道、山賊女王への道がまさか最初の国で躓くなんて……本当サイアクっす」


 ウサ耳フード付きのパーカーと、スラリと伸びたカモシカのような足。オシャレと機能性を欲張ったブーツ。


 履いてないように見える彼女の名前はベルミラ・スターリィ。


 “白耳の悪魔”や“うざぎ”などと呼ばれつつ、そのあざとい見た目から根強いファンも少なからずいた人物だ。


「っていうかー、なんなんすかこの国!」


 ガバッと身を起こして座り込むベルミラ。同時にフードがめくれる。


 艶やかな茶髪のミディアムヘアーは、これまたあざとさを感じるゆるふわカール。


「なんでこんな小国にあんなに強い人たちが集まってるんすか、ぶーぶー」


 不満げに唇を尖らせる姿すら可愛いが、もちろん揺らぐ事はない。最初から智略は高めてある。


「領地経営に東奔西走してきた結果ってところだな。で、だ。名前はベルミラ・スターリィで良かったな?」

「うげ、私の本名までバレてる……えー、何で知ってるんすか。その名前、人前で使ったことないっすよ」


 設定資料集に載っていたからさ、とはもちろん言わない。


「お前の事は何でも知ってるぞ。金山や銀山を狙った理由はとにかくお金がいるから。お金がいる理由は、祖父が残した古代文明の産物を修復したいから……そうだな?」

「え、ぁ、ウソ……な、なんで……」


 統率を一気に上げた影響もあり、ベルミラの顔に畏怖の色が浮かぶ。


「ちなみに、お前が男を魅了する為に使う香水は回収済みだし、その対策も万全だ。分かるな? お前はもう詰んでるし、その命は俺の胸三寸だ」

「――ッ」


 畳み掛けるように告げれば、その顔に浮かぶのは絶望の色。


「い、嫌っす……私、まだ死にたくないっす……! おじいちゃんの遺志を継ぐ為にも、まだ……っ!」


 牢屋の格子に身体を押しつけたベルミラ。そのままパーカーの胸元を開けて、形の良い胸を差し出すようにする。


「ほ、ほら、私、可愛いっすよね? この身体、好きにして良いっす! 何でもするっす! だから、だから……」

「色仕掛けも無駄だぞ。俺には最高に可愛い嫁たちがいるからな」

「あ、ぅ……」


 未遂とは言え、山賊の群れに領地の一部が奪われる所だったのだ。


 現実でそのような状況になった時、どんな地獄が繰り広げられるか……それを思えば、容赦は出来なかった。


「お前を殺すのは簡単だが、利用価値がある。だから生かす」

「り、利用価値……? な、何をすれば良いっすか!? 何でもするっす!」


 その言葉に嘘がない事を確認しながら、告げる。


「ディアモント王国の山賊を引き連れてネーベル王国に潜伏し、合図を待て。合図と共に指定の砦を制圧しろ」


 利用出来るものは、利用する。侵略者には容赦しない。


「ちなみに、お祖父さんの遺産。それも預かってる。ウチの戦力は体験した通りだ、取り返す事は出来ない。……分かるな?」


 その言葉がトドメになったのだろう。ベルミラは小さく頷いたのち、その場に崩れ落ちた。


「……今日は休んで良い。明日から動いてもらう」


 そう言い残し、牢屋を後にした。


 後ろから聞こえる嗚咽を努めて無視し、地上に出た俺は、そこで待っていた人物と合流する。


「悪い。待たせたな、ニミュエ」

「構わない……待つのは慣れてる」

「それで、解析結果は出たか?」

「ん、ばっちり……私なら直せる……」


 ベルミラが何を犠牲にしてでも直したいと願っていた祖父の遺産。


 それが武具である事を知った俺は、もしかしたらと思い、ニミュエに調べてもらったのだ。


「すぐに直す……?」

「今頼んでいる“アレ”が全部終わり次第、取り掛かってくれると助かる」

「ん、分かった……ユミリシスは、優しい」

「未遂で、しかもウチが初犯だからな」


 恐らくこの時期の彼女は、原作ほど擦れてはいない。成人すらしていないだろう。


「盗人には罰がくだるし、労働には報酬が支払われる。それを実地で学んでもらうさ」


 直った遺産を受け取った後、ベルミラがどうするかは、本人が決める事だ。


「あの少女は、運が良い……あの武具を直せる者は、そうはいない……」

「だな。その極まった豪運、精々ウチの為に役立ててもらうとしようか」


 わざとらしく悪徳領主の笑みを浮かべれば、ニミュエが可笑しそうに小さく笑う。


……さて、これ本当に国内情勢は落ち着いた。


 招待状を、準備するとしようか。

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