第53話 敵国スパイの情報網は完全掌握しました

 ニミュエを連れてきた二日後、執務室。俺は帰還したネコミから報告を受けていた。


「それで、首尾はどうだ?」

「ん、言われた通りにやったでござる。出来るかぎり殺さないように処理しつつ、有能な者は洗脳しておいたでござるよ」

「ありがとな、ネコミ。大変だったよな」

「単に殺すより色んな忍法を使う事が出来て楽しかったでござる。でもどうして殺さないでござるか?」


 殺せばそこに空白が生まれ、行動範囲の把握が難しくなる。


 不自然に連絡が途絶えたら敵を警戒させてしまう。


「それに、国内の間諜を纏めて殺したら情報力があるってバレるからな。今はまだそこまで知られたくない」

「なるほどの助。敵に情をかけた訳ではないと」

「俺はそこまで優しくないぞ」


 スパイになったからには、どんな目に遭う事も覚悟しているだろう。


「確かに洗脳は好きじゃないが、こっちをハメようとしてきた相手だ、容赦はしない。徹底的に利用する」

「うんうん、良いでござるな! やはり御館様の元でなら、思う存分ウチの忍法を使えそうでござるよ!」


 全身で喜びを表現するネコミ。ばるんばるんと弾む胸。


 深く息を吐き、天井を見上げながらルリの顔と言葉を思い出す。


『結婚するまではしない事に決めてるの』


「おおっ……御館様の邪念が一瞬で消えたでござる。これが明鏡止水の境地でござるか」


 どこかで聞いたような科白だな……。


「というか、そんなに分かりやすいか?」

「いや、正直見事なものでござる。ウチくらい鋭くなければ気づけないでござろう」

「その言葉が聞けて安心したよ」


 微細な能力値調整を頑張っている甲斐があるというものだ。


「ともあれ、いったん休んでくれ。また何かあったら声を掛ける」

「承知の助! 出来れば早く次の忍務を頼むでござるよ」


 シュッと消えるネコミを見届けたのち、執務椅子に深く腰掛ける。


「結婚、か……でも、そろそろ出来るかもしれないな……」


 国内でウチに逆らえる家は存在しない。間諜も全て対処出来た。内政も順調に進んでいる。


 三人のドレスは執事長さん協力のもと、仕立てが進んでいるし……指輪に関しても宛がある。


「国外情勢が大きく動き出す前に……うん。これ以上、待たせたくもないからな」


 という事で、各所に連絡を入れたのち仮眠を取ったのだが――。


 眠りについてからしばらくして、お腹の上に何かが乗っているような感覚で目が覚めた。


 視線を向けると、そこには褐色肌の微かな膨らみ。


「ユミリシス! 目ガ覚メタカ!」


 薄布一枚しか纏っていないメラニペが、俺に跨っていた。


 突然の光景に硬直していると、メラニペが嬉しそうに飛び跳ねる。そうすると、履いてないせいで色々なモノが見えて……――!?


「ま、待てメラニペ! 落ち着いてくれ!」


 荒ぶる神よ静まり給えと祈るが如く、目を閉じて智略を高める。


「分カッタ! 落チ着クゾ!」


 その言葉に安心して目を開けると、薄布がズレたせいで胸が丸見え状態だった。


「あーあーあー! ベッドから降りて、着替えてきてくれ! それから話をしよう! な!」

「ム……服ヲ着ルノハ落チ着カナイガ、分カッタ。着替エテクル」


 部屋を出ていく音が聞こえたのち、再び目を開けて安堵の溜息を吐く。


「好きな子の肌、破壊力凄すぎだろ……」


 その後、チュニックに着替えたメラニペが再び部屋にやって来て、話を聞く流れになったのだが……。


「怪しい奴を捕まえた?」

「ウム! 森デ友タチニ見張ラセテイル!」

「よくやったぞ、メラニペ」

「エヘヘッ」


 頭を撫でられて嬉しそうに笑うメラニペ。そんな彼女の案内で森に向かった所、捕まっていたのは山賊の男だった。


 そして、魔獣に怯える山賊は聞いてもいないのにペラペラと話してくれた。


「国内の山賊たちを集めた、大規模な襲撃作戦……か」


 ひとまず山賊を犯罪者専用の作業場に送りつけて、執務室に戻ってきて、現在。


 俺はアイルとメラニペを執務室に呼び、情報を吟味していた。


「以前レーゲンから報告があった山賊の減少……やっぱり誰かに統率されていたって訳だ」

「友タチガ、山賊カラ変ナ匂イガシタト言ッテイタ!」

「変な匂い……?」


 メラニペの言葉を聞いて思い当たる節があった。


「国内における山賊の減少に、変な匂いか。なるほど」

「あ、また御主人様の謎知識が発揮されました?」

「モウ分カッタノカ!?」


 それは恐らく、原作ゲームにおいてランダムに発生するイベントだろう。


「香術を用いて山賊たちを操り、襲撃を起こして金山や銀山がある地域を制圧する……それが犯人の狙いだ」

「その言い方からすると、ネーベル王国とは別口です?」

「ああ。ただ、下手をしなくてもネーベル王国より厄介だ」


 敵国に発動すれば嬉しく、自国に発動すると面倒臭い、そんなランダムお邪魔イベント。


「メラニペ。力自慢で鼻も効く魔獣と、足が早くて広範囲の知覚が得意な魔獣を集めておいてほしい。ネコミと一緒に捕縛に当たってもらう」

「ン、分カッタ!」

「アイル、念の為にヤエも呼び戻しておいてくれ」

「えっ」


 素直に頷くメラニペとは対照的に、アイルがギョッとした表情を浮かべる。


「メラニペ様とネコミ様だけでなく、ヤエ様まで……? そんなに危険な人なんです?」

「正直、過剰戦力だと思うんだが……念には念を、って奴だ」


 何せ相手は【幸運・Lv5】を持ち、イベントキャラゆえ捕まらず、そのくせ鉱山収入を奪っていく悪魔のような女なのだから。


 憂いなく式を挙げる為にも、初手から動かせる最大戦力を動かし、かたをつける。

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