第52話 最強装備の量産体制が整ってしまった件について
確かな手応え。敵の心臓をぶち破った感覚を拳に感じながら、着地。即座に能力値を適正値に戻す。
「ハァッ、ハァッ、……ッッ」
バクバクと鳴る心臓、全身の熱が急速に冷えていく感覚、震える身体。
「これは……ヤバいな」
命や行動に支障があるわけではないが、シンプルに不快感が強くて二度とやりたくなかった。
「でも、その甲斐はあったか」
呼吸を整えながら前を見据えると、そこには地面に倒れ伏した邪竜の姿。
やがてその姿が光の粒子へと変わり、消滅していく。
「……、どうして。邪竜に、ただの拳が効くわけが……」
フラフラと俺の近くまで歩いてきたニミュエが、ペタンと地面に座り込む。腰が抜けたのだろう。
「安心してくれ、ニミュエは間違ってない。俺の力が規格の外にあるだけだ」
物理無効は、正確に言えば“自身の武勇値以下の物理ダメージを0にする”効果。
つまり邪竜の武勇値を超えさえすれば、特殊な武具がなくともダメージが入るのである。
「よっと……」
気絶しているヤエを背負い、ニミュエに手を差し出す。
「ほら、立てるか」
「ん……」
手を取って立ち上がるニミュエに向けて、口を開く。
「さて、邪竜は倒した。約束通り専属鍛冶師になってくれるよな」
「……、こんな事は、想像もしていなかった……」
古き妖精の血脈に連なり、邪竜封印の役目を背負った人柱。
そんな生き方が嫌で、英雄たちを
「でも……アナタは私を
白磁のような肌をほんのり赤く染めて、慈しむように俺の手を取るニミュエ。
「んっ……♡」
チュッと
「あー、うん。これからよろしくな、ニミュエ」
明らかな思慕を向けられてむず痒い感覚を抱く。
しかもニミュエの服は、真上から見ると胸の全てが丸見えだ。大変よろしくない。
「よ、よし。準備が整ったらウチに連れて行こうと思うけど、何日で済みそうだ?」
「ん、鍛冶場は召喚出来るから問題ない……。私の服と試作品くらい」
「じゃ、服も試作品も道具袋に纏めて入れていこう。ただ服はシワにならないよう、ケースに移す所からだな」
スラスラと返せば、ニミュエが小首を傾げて尋ねてくる。
「ユミリシス……準備が良い。最初から、私を連れて行くつもりだった……?」
「ああ、ニミュエが欲しかったからな」
……しまった。今のは余りにも考えなしの発言だったかもしれない。
視線を下に向けると、耳まで真っ赤にして
「ゆ、ユミリシスが望むなら……鍛冶師としての腕と忠節だけでなく、身体も捧げて良い……」
そんな可愛い反応をされると欲望に流されそうになるので、控えてほしい。
慌てて智略を上げつつ、婚約者が三人いる事などを伝えたのだが――。
「ん、大丈夫……。いっぱいユミリシスの役に立って……好きになってもらえるよう頑張る」
と、むしろ決意に火を点けてしまったらしく、女性と接する難しさを改めて感じるのだった。
その後はニミュエと、目覚めたヤエを伴って領主館に帰還。
二人と分かれた後はすぐに自室に戻り、どっと押し寄せる疲れに抗う事なくベッドにダイブしていた。
「やっぱり金ピカの部屋は落ち着かないって……」
慣れ親しんだ自分のベッドでリラックスしつつ、改めてニミュエについて考えを巡らせる。
原作の彼女の性能は【軍団の強さを50%、金山・銀山の産出効率を100%アップさせる】という内容。
最高峰の効果ではあるが、基本的に仲間に出来るのは終盤なので、原作では恩恵を感じづらかった。
「でも……この世界では違う」
それに、ニミュエが武具の代金は不要と言ってくれたのもありがたかった。
俺の望むままに幾つでも武具を作ってくれるニミュエがいれば、武官たちも大幅に強化出来るはずだ。
「ただ、問題はフラグに関してだな……」
邪竜の蘇生を思い返す。
変に先回りするよりは、むしろ原作主人公のフラグを全て奪う勢いで動いた方が良いのかもしれない。
「ま、その辺に関しては今後また計画を練るとして……ふあぁ」
今はゆっくり眠りたい気分だったので、睡魔に抗う事なく、心地良い眠りへと落ちていくのだった。
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