第48話 忍者は凄い、古の書物にもそう書かれている

 ヴァッサーブラット領に帰還し、ネコミを紹介した時の反応は実に多彩だった。


 ルリは自分の胸と比較してぐぬぬ顔になり、メラニペは瓶底眼鏡を借りて楽しげに笑い、ウルカは忍法を再現出来ない事を残念がり、アイルはいつもより多めに鼻血を吹いた。


 そして、ヤエは――。


「あらあら、ネコミ様。うふふ、お久しぶりですね」

「や、ヤエ・シラカワぁ――――!? うえぇ、ちょ、なんで此処にいるでござるか!?」

「ユミリシス様は、わたくしめの主様ですから」

「……うそぉ。ビックリ仰天の助でござる」


 マジ? みたいな顔でこちらを見てくるネコミに頷きを返す。


 原作では絡みがなかったが、確かに同じフソウ出身なのだから面識があってもおかしくない。


「二人はどういう知り合いなんだ?」

「はい。以前わたくしめと手合わせして頂いた事があるのです」

「いや、あれ一方的に襲われただけ……」


 その会話を聞いて事情を察したので、ポンポンと励ますようにネコミの肩を叩いてやる。


「苦労したんだな」

「ぶわっ……御館様の気遣いに全ウチが泣いたでござる」

「仲良く出来そうか?」

「んー、ヤエ殿がウチに斬り掛かって来ないなら大丈夫でござる」


 チラリとヤエの方を見ると、ニコニコ笑顔でこくんと頷く。


「楽しいひとときでしたから、また手合わせしたい気持ちはありますが……主様が禁ずるのであれば我慢いたします」

「はえぇ……凄いでござるなぁ。あのヤエ・シラカワがこんなにも従順に……流石は御館様でござる」


 感心するようにそう言った後、コホンと咳払いするネコミ。


「それでは、改めてよろしくお願いするでござるよ!」


 忍者らしく指を立てる刀印ニンニンのポーズを決めた彼女は、楽しげに笑いながらそう告げるのだった。


 そして翌日、早速働いてもらう為、俺はネコミを連れてレーゲンの元を訪れていた。


 摂政用の執務室で作業をしていたレーゲンは、俺を見て安堵の表情を浮かべたのち、後から入ってきたネコミを見て唖然とした表情を浮かべる。


「ヴァッサーブラット卿、よく来てくれた……しかし、彼女は一体……? 踊り子、か?」


 なるほど、忍び装束をそう解釈したのか。確かに見た目も奇抜だし、踊り子に見えるかもしれない。


「こいつはネコミと言って、忍び……いわゆる諜報能力に長けた逸材だ」

「この者が、か……? いや、もちろんヴァッサーブラット卿の言葉を疑う訳ではないが……」


 困惑を深めるレーゲン。……手っ取り早く実力を知ってもらうか。


「疑うのも無理はない。ネコミ、見せてやってくれ」

「合点承知の助でござる~」


 直後、ネコミがその場から掻き消えた。


「――!?」


 レーゲンが驚きながら周囲を見回していると、ネコミが元いた場所に姿を現す。


 そしてその手に、先ほどまで持っていなかった印璽シーリングスタンプを持っていた。


「なっ、馬鹿なッ!?」


 慌てて懐を探るレーゲンだが、すぐにその表情が青ざめる。どうやら本物の印璽であると理解したようだ。


「はいこれ、失くさないように気をつけるでござるよ」

「…………」


 レーゲンは呆然とした表情のまま、返された印璽とネコミの間で視線を彷徨わせる。


「こんな見た目だが、実力は本物だ。という事で、話を進めても良いか?」

「あ、あぁ……分かった」


 動揺を引きずりながらも席についたレーゲンに合わせ、俺たちも席につく。


「さて、まずはそうだな。件の伯爵の処分はどうなっている?」

「情報を聞き出そうとしているが、難航している……というのが正直な所だ」

「だったらネコミに尋問させよう」

「余り手荒な事は……」


 レーゲンの視線を受けたネコミがグッとサムズアップし、胸がたぷんと揺れる。


「大丈夫でござる。痛みも苦しみも感じさせずに吐かせるでござるよ」

「そのような事も出来るのか。分かった、ならば任せよう」


 すでに動揺からは立ち直ったらしい。レーゲンが平然とした表情で頷く。


……この能力値の差でネコミの胸に反応しないのは凄いな。どれだけ生真面目なんだ。


「伯爵から情報を聞き出したら、ネコミにはそのまま国内の間諜を処理してもらう。ネコミは必要だと感じたものがあれば遠慮なくレーゲン卿に言ってくれ」

「なるほどの助。承知したでござる」

「ああ、可能なかぎり調達してみせよう」


 国内の間諜に一人で対処するなど、常識的に考えれば不可能事だろう。だが、ネコミなら可能だ。


 何せヤエに“楽しかった”と言わせるほどの戦闘力を持ち、諜報能力においてもゲーム内で一、二を争う実力者なのだから。


「っと、そうだ、レーゲン卿。伯爵に仕えていた人たちはどうなっている?」

「聴取は完了している。間諜疑惑が晴れた者から順次、解放していく予定だ」

「だったら全員と面談させてもらえないか」


 さて、再就職先の斡旋と人材の確認をしようか。

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