第20話 やり過ぎなくらいじゃないと間に合わないから
会議のあと、仮眠の最中に見た夢。それは原作ゲームを大国の視点からプレイしている夢。
強キャラと兵数の暴力で小国を制圧し、捕虜から目ぼしい人材を探していると王の処刑が始まる。
処刑や暗殺といったキャラが死ぬタイプのシステムはなかったはず、と疑問を抱いていると……処刑される王は、俺の姿をしていた。
突然の事に驚いていると、世界がぐにゃりと歪んで暗転し、気がつけば俺の首がギロチンに掛けられている。
そして、アイル、メラニペ、ルリ、クラーラ……家臣団や領民。
他にも、レーゲンやフローダなど国内で縁を結んだ者たち。
皆が悲惨な目に合う光景を見せつけられながら、首を落とされて――。
そこで、目が覚めた。
「はあぁ……なんて夢を見てるんだ、俺は」
仮眠用のベッドから起き上がり溜息を吐く。
「ただ、支離滅裂だったけど……あり得ない未来じゃないんだよな」
領地経営は順調だが、大国を相手にするならまだまだ足りない。どれだけやってもやり過ぎという事はない。
それを改めて認識した俺は、仮眠室を出たあと執務室へ。
智略と政治の能力値を特化させて、ひたすらに領主としての書類仕事をこなす。
そんな俺にアイルが声を掛けてきた。
「御主人様の仕事ぶりは相変わらず凄まじいですねぇ。並の文官じゃ束になっても敵わないですよ」
「人材登用で空けがちだからな。いる時くらいはしっかり働いておかないと」
書き物の手を止めずに返事する。
「文官の子たちが嘆いていますよ。御主人様がいると自分たちの仕事がなくなるーって」
「その分ゆっくり休むなり、勉強に時間を当てるなりしてくれれば良いさ。普段苦労をかけているからな」
「そこは安心してください。しっかり宿題を出して教育していますから」
えへん、と胸を張るアイル。割烹着の上からでも分かる胸が強調されて目の毒なので、書類の文字に集中する。
「アイルもありがとな。お前がいるからウチの領地は回ってる」
「御主人様の連れて来る人たちが優秀なので、これでもかなり楽をさせてもらってるんですよ。数はともかく、文官の質は中規模国家並ですね。だからこそ領地の拡大が
「優秀な人材がいても仕事がない状態って事か?」
「王領直轄地やシュヴァイン領が手に入ったので、当面は大丈夫です。ただ、このままだと遠からずそうなりますね」
何かしら文官たちを生かせる新たな内政仕事を見つける必要がある、と。
「本物の悪徳領主がいれば、追放して土地を取り上げる大義名分も出来るんですけどねー。他領の情報集めの為にも、諜報に長けた人材が早く欲しいところです」
「人材には心当たりがあるんだけどな……今の時期にどこで何をしているかが分からないんだ」
「まだ待ちという感じですね、かしこまりです」
会話が途切れ、しばらく互いの作業の音だけが耳に届く。
この静かな時間も好きだが、もう一つアイルに尋ねたい事があったので再び口を開いた。
「さっき内政力は中規模国家並って言ったよな。武力はどうだ?」
「そちらも同じですね。数は少ないものの、武官の質だけを見るなら中規模国家にも引けを取りません。ただ兵力差はいかんともしがたいですし、ましてや大国とは比較する段階でもないです」
「兵力か……毎年募兵できる数にも限界があるしな」
「それこそ領地が増えたらまた話は変わるんですけど……ただ、どこまでいってもディアモント王国は小国ですからねぇ。中規模国家相手なら防衛は出来ますが、そこ止まりですね」
その評価は俺の所感とも一致していた。
「なぁ、アイル。もし大国がカフカスに攻め込んで来たとして、今の戦力で守りきれるか?」
「カフカスなら防衛に専念すれば大丈夫だと思いますよ。話を聞くに大森林そのものが天然の大要塞であり、天然の罠も多いですし。最小限の備えで最大限の防衛効率が出せるはずです。ただ……」
「ただ?」
頭の中で言葉をまとめているのか、少しだけ間が空いたあと、アイルは再び言葉を続ける。
「大半の魔獣の移動が完了した状態ですから、メラニペ様の魔獣も少数の精鋭しか配置できない点。それと軍団の実戦経験の不足が懸念点ですかねー」
「実戦経験の不足か……」
「本来は山賊だけでなく、魔獣の討伐にも部隊を派遣して実戦経験を積ませるんですが、それはしない方針ですからね」
魔獣が人に危害を加えるならやむを得ないが、こちらから積極的に討伐に向かう事はしない。
それがメラニペの気持ちを考えて決めた方針だった。
「あとは、開拓と開墾も兵士の訓練に最適ですから。それこそヴァッサーブラット領の森林群を開拓出来れば、訓練しつつさらなる土地収入を目指すことも可能だったんですけどね」
「メラニペを選んだがゆえの、か……でも、後悔は全くしてないし、これが正しかったとも思ってるぞ」
もちろんです、と頷いたあと、アイルは笑いながら言葉を続ける。
「要するに、何事もメリットがあればデメリットもある、ということですね。内政なんていうのは、比較してより大きなメリットのために多少のデメリットを受けることの連続ですから」
御主人様の持ってくるメリットはいつもデタラメですけど、と笑うアイル。つられて俺の顔にも笑みが浮かぶ。
「ん、そうだよな。……さて、話がズレたが、とにかくカフカスの防衛は出来そうだと。それは朗報だが、もし大国がディアモント王国に攻めてきたらどうにもならないって事だよな」
「魔獣さんたちである程度の兵力差を補えると考えても、大国の全力を相手にするなら、そうですねぇ……防衛に限定してもルリ様並の戦力があと二人。その上で軍団の練度を今の倍にして、ようやく引き分けが狙える感じでしょうか」
「やっぱりそうなるか……」
つまり、悪夢を回避するにはまだまだ戦力が足りないという事だ。
「軍団を強くする方法としては何が思い浮かぶ?」
「辺境伯との演習はどうです? あそこの軍団が国内で一番強いですし、いざというときの連携も取りやすくなって良いと思います」
「じゃあその準備を進めておいてくれ。それと旅支度も頼む」
作業完了と同時にペンを置き、立ち上がる。直後にアイルがポンと手を叩く。
「なるほど、新しい女の子」
その言い方はどうかと思うが、新たな逸材を確保しに行くのは事実だった。
今のヴァッサーブラット領に足りない武力を備えている存在。
大陸東部に存在する和風国家の出身で、原作ゲーム最強の剣士。
歴史通りならとある大国に士官してしまうその英傑を、先にウチで確保するのである。
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