第19話 忠愛MAXの頼れるパートナーたち
シュヴァイン領から帰ったあと、アイルが手ずから育てた文官を派遣し、ほどなくして領内の全権限を掌握するに至った。
今後フローダをどうするか考える必要もあるが、優先順位の高い問題から解決していかなければいけない。
という事で、俺、アイル、ルリ、メラニペの四人は会議室に備えつけられた円卓の席に座り、カフカスの魔獣の移住について話し合っていた。
「カフカスの魔獣が一斉に移動したら大騒ぎになるんじゃないかしら」
「我ガ友タチニハ、決シテ人間ヲ傷ツケサセナイ。ダガ、人間ガ攻撃シテクルナラ反撃セザルヲエナイ」
「そうなると、魔獣さんたちを幾つかのグループに分けて、順番に移住してもらうのが無難ですかねー。人里を通らずに済む経路を考えてみましょうか」
三人とも優秀なので、俺が口を挟むまでもなく案が決まりブラッシュアップされていく。
「ん? そこって確か湿地帯よね? 魔獣たちは通れるかしら」
「はい、なのでこの経路は飛行系の魔獣さんたち用ですね。飛べない魔獣さんたちには、こちらをぐるりと回っていただこうかと」
「なるほど、これなら確かに人里を避けつつ移動出来るけど……日数はどうしても掛かっちゃうわね」
「ン? 友タチハ体力ガアル、長旅モ平気ダゾ」
「移住自体は問題なく完了すると思うんだけど、ただ……」
言い淀むルリに声をかける。
「どうしたんだ、ルリ。何か気になることでもあるのか?」
「あ、うん……いくら小分けにしても、魔獣たちがカフカスから移動したっていう情報は、各国に知れ渡ると思うの。時間をかければかけるほどね」
「ああー、なるほど、ルリ様の懸念が分かりました。確かにカフカスを切り捨てるのは勿体ないですよねぇ」
「切リ捨テルトハ、ドウイウコトダ!」
ムッとした表情になったメラニペに、アイルが慌てた様子で返答する。
「あ、違います違います。魔獣さんたちはもちろん、皆さん領内に来ていただくんですが……皆さんがいなくなった後の、カフカス大森林の話ですね」
「何カ問題ガアルノカ?」
きょとんとした顔で小首を傾げるメラニペ。そんな姿も愛らしい……というのはさておき、ルリとアイルの懸念はもっともだった。
「空白地帯になったカフカス大森林が各国に狙われるって事だよな」
「そういうことね。メラニペの心情的にも、カフカスが人間に荒らされて旗を立てられるのは嫌なんじゃない?」
「ソレハ……確カニ嫌ダナ」
「さらにですねぇ、カフカスの主であるメラニペ様が御主人様の伴侶になる以上、カフカスは既にヴァッサーブラット領とも言い張れるんですよ。それをみすみす他国に渡すのも嫌ですよね」
「……そうか」
原作ゲームではプレイヤーの領地に出来ない地域だったので、頭から抜けていたが、確かに俺は今やカフカス大森林の主にも等しい。
活用出来るなら活用しても良いというわけだ。早いうちに気付けて良かった。
「盲点だったな。ルリ、そういうことなら領内の採掘はいったん置いておいてくれ。カフカスに一緒に行こう」
「な、何よ突然」
「――カフカスには、ウチの領地なんて比較にならないほどの魔石が眠ってるんだ」
「……!?」
魔石が多い地域ほどプレート移動による被害が大きくなる。復興が大変な国ほど成長しやすいという訳だ。
……成長する前に他国に併合されなければ、だが。
という事で、カフカスが大崩壊を起こすのは、それだけ大量の魔石が眠っている証なのである。
「だから、絶対に他の国には渡せない。ディアモント王国が……ウチがカフカスを維持出来るよう動いてほしい」
プレート移動が起きるまでの間に可能なかぎりカフカスから魔石を採掘して、プレート移動前に撤退する。
これが一番良い活用方法だろう。
「全く、考える事が増えたじゃないの」
「御主人様の無茶振りはいつもの事ですからねぇ。でも達成したら莫大な利益が出るので、頑張りましょう」
そんな会話を交わし、先ほどよりも濃密な話し合いを始めるルリとアイル。
二人を横目に見つつ、メラニペが俺に話しかけてくる。
「――ヨク分カラナイガ、ユミリシスガ森ヲ守ッテクレルトイウ事カ?」
「ああ。俺たちの土地だからな。ただ、採掘はさせてもらうけど良いよな」
「ウム! 森デ採レル物ハ我々ノ物デアリ、ユミリシスノ物デモアル! 自由ニシテクレ」
「はは、ありがとな、メラニペ」
ポンポン、と頭を撫でると、メラニペは力になれるのが嬉しいと言わんばかりに笑うのだった。
それからほどなくして、残りの相談は実際の地形を確認してから行なうということで、その日の会議は終わった。
……順調に行きすぎている事に、不安を感じたからだろうか。
会議を終えて仮眠をとっていた俺は、嫌な夢を見る事になる。
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