第三章

第21話 人類最強の剣士との出会い

 早馬なら数週間は掛かるところを数日で踏破する魔狼さん。そんな彼の背中に乗せてもらい、俺たちはカフカス大森林に来ていた。


 到着後、ルリはメラニペに案内され、大森林の地形把握と魔石採掘の準備に。


 俺はそんな二人に見送られながら、魔狼さんから空を往く魔獣……怪鳥さんの背に乗り換えて、空の旅へ。


 そして現在、怪鳥さんの上で興奮の真っ只中にいた。


「うおおおお、飛んでる……! これは、凄いな!!」

「Kueeeeee!!」


 俺の声を聞いた怪鳥さんもいななく。意味はさしずめ「ふふん、どんなもんよ」と言ったところか。


 魔狼さんの速さにも感動したが、怪鳥さんはそれ以上だった。しかも羽毛がふかふかなので天然のベッドにもなる。


「これからもよろしく頼むな、怪鳥さん」

「Kueeeeee!!」


 任せておきな、と言わんばかりの鳴き声を上げる怪鳥さんに頼もしさを感じながら、ゴロリと横になって目を閉じる。


 これから会う相手とは戦闘が不可避なので、今のうちにしっかり身体を休めておかなければ。


 そして、怪鳥さんのおかげで長期を覚悟していた日程を数日にまで短縮し、無事に東方にあるフソウ皇国、その皇都であるヤマト近辺の森にたどり着く事が出来た。


「よっと……、ありがとな、怪鳥さん。明日までには戻って来るから、それまで待機していてくれると助かる」


 怪鳥さんの背中から降りたあと、収納袋に入っていた 貫頭衣型のケープと円形の帽子を身につけて、商人スタイルになる。


 ただし、通行手形はないので壁を飛び越えてこっそり侵入する。


 スタッと着地し、無事にヤマトに入った俺は――眼前に広がった光景を見て、思わず息を呑んだ。


 桜の花びらが舞い散る中に並ぶ、木造の平屋を始めとした和風建築。


 髪色はさまざまで、角の生えた鬼人族や獣耳が生えた獣人族もチラホラいるが……身につけている衣装は小袖や振り袖、羽織袴、狩衣など、時代劇さながら。


 視界の遥か先に見える天守閣は堂々とそびえ立っており、遠目からでも存在を主張している。


 眼前に広がる圧倒的スケールの“和”の空気感に、心をかき乱された。


「……っと、いつまでも突っ立ってる訳にはいかないな」


 しばし放心していたが、頭を振って郷愁の念を振り払い、人の流れの中に。都の中央へと向かう人々に合わせて道を歩く。


 目指すはヤマトで一番有名な剣術道場だ。将来的にはフソウを出て大国に仕え、猛威を振るう人物がそこにいる。


「道場の正確な場所までは分からないが、そのへんの人に聞けば分かるか」


 さて話しかけやすそうな人は、と。

 行き交う人の流れの中、キョロキョロと辺りを見回していると、周囲から視線が集中するのを感じた。


 すれ違う人がチラチラとこちらの顔を見てくるのである。何故だろう、と思っていると、商家の人らしき男性が話しかけてくる。


「よ、そこの男前の異人さん。珍しいねぇ、異人さんがヤマトに来るなんて。その格好、商人なんだろ? だったらちょいとウチの酒を飲んでいかないかい? ウチの酒はヤマト一番だぜ」


 異人、という言葉を聞いて、視線を感じた理由を理解する。確かに顔の作りも背丈も周りと違うし、物珍しさを感じるのだろう。


「そんなに異人は珍しいのか?」

「そりゃあなぁ、辺境にある町ならそう珍しくもないだろうけど、何せここは巫女姫様のお膝元、皇都ヤマトだ。異人さんは珍しいから、みんな見ちまうさ」


 それなら目立つ行動は避けるべきだろう。統率を下げて目立たないようにしたほうが良いかもしれない――などと考えたところで。


「――ッ!」


 突如として飛んできた戦意に反応し、本能的に背後を振り返っていた。


「あらあら……ほんの僅か漏れてしまった戦意を、気取る事が出来るのですね」

「あっ……」


 視界の先にいた人物を見て目を見開く。


 まず目につくのは、星の瞬く夜空のような黒髪。腰の辺りまで伸びたその髪が、小首を傾げることでさらりと流れる。


 肌は白く透明感に溢れており、頬には興奮を示す朱色。形の良い唇に浮かぶのは薄い笑み。


 白色の着物を身にまとい、腰には鞘に入った日本刀。


 桜吹雪が舞う中、口元に手を当てて佇むその女性は、一枚の絵画のように美しい。


 ただ一点の違和感としては、そのまぶたがつねに閉ざされている事か。


「ヤエ・シラカワ……」


 思わず名前を呟いてしまえば、秀麗な眉目がピクリと動く。


「先ほど来たばかりの異人さまが、わたくしめの名前を知っているとは、不思議なこともあるものです」


 小鳥のさえずりりのような声音に乗っているのは好奇の色。


「今から会いに行こうとしていた相手が、自分から出向いてくれたんだから、驚きもするさ」


 彼女こそ俺が探し求めていた人物だ。


 原作ゲームの上限値である100の武勇を備えた最強の英傑。ルリと並ぶ四大公式チートの一角、ヤエ・シラカワ。


 視力を失った代わりに氣と呼ばれる力に目覚めて、半径2km圏内にいる任意の相手を認識出来るようになった剣士である。

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