03 聚楽第(じゅらくだい)
「ええい、こうして瓦作っとっても、詮方ない」
ある日、長次郎は工房から飛び出した。
宗慶がおい待てと言っているが、どうしようもない。
何というか、
そんな感じだった。
「うおおおお!」
自分でも、狂っていると思う。
京の都大路を、血相変えて叫び出して、走る。
京都所司代に目をつけられるかもしれないが、かまわなかった。
とにかく、走る、走る。
うしろで追ってきている宗慶が、待て待て待ってくれというか、聞こえぬふりだ。
何か。
何か、ないか。
おのれの陶工として満足させる何かは。
「あっ、おいっ、そっちは」
役人の声がする。
そういえばここは。
「ここは関白さまの聚楽第の御用地ぞ。立ち入り禁止じゃ。
役人には、陶工の悩みなんぞ、知る由もない。
知る必要もないし、狂人の相手なんぞ、御免蒙りたいと思っているだろう。
「去ねと言っておるッ! これッ!」
さすがに関白秀吉の聚楽第の建築を監督する役人だけあって、腕が立つ。
長次郎はあっさり投げ飛ばされて、土くれの山の中へと顔を突っ込んだ。
「……ぐはっ」
「そこで頭を冷やしておれいッ」
そう言い捨てて、役人は忙しい忙しいとさっさと別の持ち場の監督へと向かってしまった。
あとに残るは、土くれだけだ。
ここはどうやら土捨て場らしい。
時折り、人足が来ては、運んだ土くれをどさっと捨てていく。
「……くそっ」
聚楽第とは、楽を
「何だってんだ」
建物を建てるためには整地が必要。そのために、土くれを捨てることも必要……とはわかっているが。
「うおおおお!」
長次郎はなぜか、納得いかなかった。
それは、おのれの陶工としての悩みとつながっているような気がして。
絢爛豪華な聚楽第と、豪奢華麗な華南三彩。
では、この土くれと、何が……。
「そこまでにしといてくンなはれ」
柔らかで、それでいて、しなやかな声。
聞き知った声だ。
宗慶に似ている、その声は。
「長次郎はん、このとおりや。この宗易が頭ァ下げまひょ、そやから、その
宗易。
千宗易のことであり、俗名は田中与四郎。
つまりは田中宗慶の父であった(諸説あり)。
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