#2
今を生きるための言葉を知らない、知らないフリをする、冷えてきたなと随分前から感じていた、と盛田はブログに書きかけて止めにした。
昨日、小説を書くので小倉台でしていた取材からの帰りのバスでぼくの隣に座ったお婆さんが居眠りを始めた、風呂敷包みを左手に持っている、下に落ちないように力を入れていたけれど、いつか本当に寝てしまった。いくつか寝言を言っていたが口元の力を抜いている所為か、判然しない。終点までいくのだろうかと心配したが、桜木町に着く手前、はっと起きて降りて行った、ぼくは彼女が歩くのを目で追った、しまいにバス停を見ようとして、前の方で吊革につかまってスマホを弄っている高校生と目が合った。向こうは暫くぼくを見ていたが、疲れていて目元に仄かに力を入れて、目の前にある家の日産・スカイラインを無心に眺めた。夕飯のことが頭を過って、窓に映った人の顔に父や同級生から得る不愉快を見つけようとしていた、バスが動いて彼から一寸だけ見えるバックミラーに映った、運転手の女性を彼は、一瞥した。ぼくのジャンパーは湿った窓ガラスに小さい子供の履く長靴に似た跡を作った。
昨日は寒かった。もう、場所によっては雪が窺える。風に促されてしおしおと悪気もなく落ちている。
新潮新人賞応募作品原形「メモ」アンソロジー ToKi @Tk1985
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。新潮新人賞応募作品原形「メモ」アンソロジーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
少年Sの学校デビュー最新/亜逸
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます